「お話し作ろう」by id:TomCat


「話す」のテーマが「お話し」に発展してもいいですよね? というわけで、以前、お父さんが創作子守り童話を語ってくれるという素敵な投稿がありましたが、私の父も、なかなかの創作話の名人だったんです。しかもそのやり方がまた独特。子供の出したお題に沿って、話を作ってくれるのです。


「まず場所と時代を決めよう。どこの国かな、いつの時代かな」
「うーんと、国は日本、時代は桃太郎がいたころ」
「よーし、今度は登場人物を決めよう。どんな人のお話にしようか」
「うーんとね、漁師。そうだ、漁師がいい。鬼が全部退治されちゃった後の鬼ヶ島に偶然船が流れ着くんだ」
「お、もう面白いお話しになってきたな。よし、それでいってみよう」


さあ、父のお話劇場が始まります。


大手柄を立てて桃太郎が戻ってくると、もうどこの村でもその話題で持ち切りになりました。主人公の漁師の村でも、そりゃもう大変な話題です。漁師は、すごい英雄もいるものだなあ、でも、退治されてしまった鬼はその後どうしているんだろうかと思いながら船を漕ぎ出しました。すると、突然嵐のような大風と大波に襲われてしまいました。船は木の葉のように揺られながら、やがて小さな島に流れ着きました。


ここまでが私の作った設定です。ここから父のお話はどんどん膨らんでいきました。島に流れ着いた漁師は、畑を作って耕しはじめました。育てれば野菜になりそうな草を色々見つけたからです。


ふー、畑仕事は疲れました、休憩です。漁師は持っていた炒り豆をおやつ代わりにポリポリ食べはじめました。するとどこからか、隠れていた鬼達がぞろぞろ出てきて言いました。
「オラ達を許してくれるなら、その豆、播いたら芽が出る豆に変えてやるぞ」
「んだ、オラ達は鬼だから、炒り豆を生の豆に戻す魔法が使えるだよ」
「みんなで耕して育てるべえ」


こうして岩だらけの島が、豊かな畑の島になりました。船に積んでいた藁に付いていたモミを播いたら、それも立派な稲になりました。一粒が百粒になって、百粒が万粒になって、やがて鬼ヶ島は、宝物があった頃よりも豊かな島になりました。めでたしめでたし。


なーんて、今から思えば、もう口から出任せのオンパレード。でも楽しいでしょ?


子供は少し大きくなってしまうと、こういうフィクションの世界には安住しなくなって、すぐ現実的なツッコミをして白けさせてしまったりしがちです。ところが父のやり方だと、子供自身が物語の種まきをする立場。お話しが始まる前から、その世界を共有しています。ですから、どんなに突っ込みどころ満載の荒唐無稽なお話しになろうとも、子供の心の中では、語り手の表現力以上の生き生きとした物語となって広がっているんですね。


こんな楽しいお話しの時間が、休日の昼間や、夕方のお散歩の最中にも、もちろん寝る前のひとときにも、多種多様に展開されていきました。


今思うと、父は特別お話し作りに長けていたわけではなかったろうと思います。文筆活動に携わっていたなんていう話は聞いたことがありませんし、読み聞かせのポランティアをやっていたとか、そんな経歴もなかったと思います。


でも、どうすればお話作りを親子でより楽しんでいけるようになるか。その工夫には素晴らしいものがありました。皆さんもぜひ、親子で一つのお話しを作り上げていくプロジェクトを楽しんでみてください。専門的な技能なんか、何一つ要らないと思います。親子で共有する世界に思い切り想像の翼を広げてみる。それだけで、どんな名作にも負けない物語世界が、目の前に展開されていくと思います。


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