お好み焼きを囲んで」by id:maruiti


当時、実家の近所に家族ぐるみで付き合っていたお好み焼き屋があった。
そのお好み焼き屋の姉妹(仮名:ミイちゃん、ケイちゃん)とは、年が近かったせいもあり、小さなころから仲が良く、
店に遊びに行ったり、そのうちに手伝いもするようにもなった。


店を手伝う中で、あいさつや礼儀はもちろん、客や、店の人、姉妹の両親から沢山のことを教えられた。
そのおかげで今の自分があると言っても過言ではないくらいだ。


そして十五年ほど前、その一家が引っ越すことになり、その引越しの前日に、我が家に姉妹が遊びにきて一緒に最後の食事をした。


その日のメニューは姉妹二人がわざわざ「一緒に我が家でお好み焼きを食べたい」と言ってきた。
彼女達はお店で美味しいお好み焼きを毎日のように食べているはずなのに、わざわざ母が焼くお好み焼きを食べることに。


山芋がたっぷりはいった生地は彼女達が持参してくれたので、キャベツや卵、イカや肉、チーズや餅などを我が家で用意した。
お店の鉄板で焼くお好み焼きとは火力が全然違うわよ〜と母親は言いつつも我が家で一番大きな中華なべを出して焼きながら、
台所ごしに四人で昔話に花を咲かせた。


母:「そいやミイちゃんは、昔はよくお客さんに男の子と間違えられていたっけ」
ミイ:「ショートカットだったからって間違える人は目ぇがおかしいわ」
自分:「w。そいやケイちゃんは、野菜を切るのが上手になったね〜」
ケイ:「そうよ今ではキャベツの千切りは母だってかなわないくらいよ」
自分:「お好み焼きは奥深いけど、失敗はしにくいよなぁ」
ミイ:「ところがどっこい、小麦粉と強力粉を間違えたら大変なことに」
自分・母:「どうなるの?」
ミイ:「焼いてもなかなか生地が固まらないのよ、びっくりしたわ。母が買ってきたパン用の強力粉と小麦粉を間違えたみたい」
ケイ:「山芋すったの入れて無理やり固めたっけ」
母:「将来はお好み焼き屋さんになるの?」
ミイ:「さあ、どうかな〜女優になるかも」
ケイ:「ミイは女優よりは女子プロ向きよ」


こんなたわいもない話ばかりだったが、昼前から始めた食事会は盛り上がったまま、なんと夜の九時すぎまで続いた。


最初は鉄板と違って深さがある中華なべなので、半分ほどヤキソバを入れて、たっぷりキャベツも入れてじっくりと蒸し焼きに。
途中からは餡子を入れたおやつ焼きや、チーズに餅、夕食にはキムチや明太子なども入れて変わりお好み焼きにした。


その日のお好み焼きは、母が少しでも鉄板焼きの雰囲気を出せるようにと鉄板皿に盛り付けてくれた。
焼き上がりを見計らって鉄板皿をオーブンで熱々に熱しておき、木の台にセットした鉄板皿の上の熱いままのお好み焼きをハフハフいいながら食べる。
生地が美味いので、何をいれても美味かったんだと思う。
食べるのも箸ではなく、記念にと彼女達からプレゼントされた一人一本のミニヘラ(コテ)で。


店でも箸で食べていたので、箸でなくヘラでお好み焼きを食べるのは、なんだかちょっと粋な気分になったのを今でも覚えている。


彼女らの店でいつも漂っていたお好み焼きの匂いは、いつしか暮らしの一部となっており、一家が引っ越してからは母親が代わりにお好み焼きを作ってくれるようになったため、自分にとってお好み焼きは至極身近な食事の一つになった。


そんなこともあり、我が家でのおもてなし料理として来客と一緒にお好み焼きを作ることがある。


そして自分が作るお好み焼きには、ちょっとした工夫がある。


一つは子供達の苦手な野菜、ニンジンや椎茸、ピーマン、トウモロコシをみじん切りにし、生地にたっぷり入れてキャベツや肉と一緒に焼く「攻略焼き」だ。


友人が子供と一緒に遊びに来た時も、ピーマンと椎茸を子供が苦手で食べないと言っていたが、それらを入れた「攻略焼き」を作ったら、ソースの味で上手に苦手な味がごまかされたのか、子供達はすごい勢いで食べてお代わりまでしてくれた。


また元気のない時や、楽しいこと・素敵なことがあった時には、大好きなものをいっぱい入れて焼く「大好き焼き」だ。


我が家のお好み焼きはこうしてよく「攻略焼き」だったり「大好き焼き」になったりする。


友達夫婦の引越し祝いには、桜海老、車海老、トッピングにも生甘海老をのせた海老尽くしの「大好き焼き」。
ついでに甘海老の頭はこんがりと揚げて塩をしただけで、とてもいい酒のつまみになり盛り上がった。


義弟が無事転職できた際は牡蠣を入れた「大好き焼き」を。子供はいないが、息子と波長が合うようで、叔父さんではなくお兄さんと呼んでもらってご満悦の様子。
彼は自分が滅多にしないダイナミックな体を使った遊びをしてくれるので息子は会えるのをとても楽しみにしている。
そして会いたくなると、息子は「ぼく牡蠣の大好き焼き食べたくなっちゃった、お兄さんも来ない?」と叔父を食べ物で釣ろうとするw


年末に娘が2歳になった時にもチーズとベーコン入りの「大好き焼き」を焼いた。
ベーコンとチーズの香ばしい匂いにイスの上で足をパタパタさせて喜んだ娘は、ふーふーして食べさせられるのがまどろっこしかったのか手づかみで食べようとしていた。おおっと危ない(汗)


お好み焼きそのものは特にご馳走ではないが、みんなで囲んで食べるととても楽しくて美味しいご馳走となる。
ワイワイとしゃべりながら食べるのが最高の調味料になるのかもしれない。


いつの日か鉄板付きテーブルを手に入れてお好み焼きパーティをする夢を見ながらも、専用の鉄板がなくとも家族や友達やみんなでお好み焼きを囲んで語らうのは最高のひとときだと思う。


みんなもお好み焼き焼いて、色々語って、いっぱい食べて元気になろう。


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