★★(二ツ星)

「イエ歌会」by id:SweetJelly


歌会とは、集まった人達がお互いに自分の詠んだ和歌を披露し合う集いのことです。万葉の昔から行われてきた雅な集いを、私達の家でも開いてみようではありませんか。といっても、普段和歌に馴染みが薄い人は、さぁ歌会を始めるよと言われても、どんな歌を披露したらいいのか、他の人の歌にどう反応していいのか戸惑ってしまうと思います。そこで、何かの方法で事前に参加者それぞれの作った歌に触れ合える、予備発表の場を作っておきましょう。


家族どうしなら、リビングに少し大きめのコルクボードを用意してみるのはどうでしょう。そこに、それぞれが詠んだ歌を貼っていきます。和風の一筆箋などに筆字で書くとかっこいいですが、これはカジュアルな歌会ですから、メモ帳の切れ端にボールペンで横書きでも構いません。というか、現代の和歌には、そういう物に書き付けられたというシチュエーションが表現の一環になる歌もあると思うんです。ですから、自由な歌を、自由に書いて、貼っていきましょう。参加者はそれを見て自分の歌作りの参考にしたり、当日どの歌が披露された時にどんな反応をしようかなどと考えておきます。もちろん、ここに発表される歌はあくまで第一稿で、歌会当日までにどんなふうにリニューアルされるか分かりませんから、注目していなかった歌がいつの間にか素晴らしい歌に生まれ変わっている、なんていうことも有り得ます。そういうことも考えて、キラリ光る素材の価値も見逃さないようにしていきましょう。


友達同士などで開催する場合は、メールでやりとりするといいですね。歌が出来た都度、みんなにそれをメールで事前披露していくのです。送信先は、参加者全員にカーボンコピーで一括送信してもいいですが、こういう用途にはメーリングリストのサービスを使うと簡単ですね。携帯にもPCにも対応しているメーリングリストを選べば、どちらからでも参加できて便利です。もちろん開設したメーリングリストは、歌会の打ち合わせなどにも使えます。


では、歌会の企画に移りましょう。歌会には、四季折々の行事に合わせて開かれるもの、月ごとの定例会として開かれるものなどがありますが、最初の第一回は、何かの季節行事と一緒に行うとよさそうですね。たとえば今から企画するなら、11月には新嘗祭がありますから、各家庭で収穫に感謝する集いを持ちつつ、それをテーマに歌を詠んでみる、なんていかがでしょうか。


自分で歌を詠むだけでなく、テーマにちなんだ古典的な歌も探してみましょう。たとえば新嘗祭だと、万葉集にはこんな歌があります。
「にほ鳥の 葛飾早稲(かつしかわせ)を 贄(にへ)すとも そのかなしきを 外(と)に立てめやも」
その昔、民間の新嘗の祭りはイエの主婦たる女性が厳重な潔斎の上で執り行い、家族、特に男性は、夫といえども屋内に入ることを許されなかったらしいのです。でも、どんな厳格なしきたりがあろうとも、寒空の下にあなたを立たせっ放しになんてしておけないと。そういう愛情を詠んだ歌ですね。


一方、古今和歌集にはこんな歌もあります。
「天つ風 雲の通ひ路(かよひぢ) 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとゞめむ」(僧正遍照
あれ?これは小倉百人一首にも入っている歌ですね。これのどこが新嘗祭の歌なのでしょう。実はこの歌には「五節舞姫を見て詠める」との詞書があるのです。「五節の舞」とは新嘗祭の翌日に行われる「豊明節会(とよのあかりのせちえ)」の後に舞われた舞楽のことで、その舞姫とは、公家や国司などの娘たちからなる、それは美しい五人組でした。


僧正遍照はそのあまりの美しさに感動して、天の風よ、天地を結ぶ雲の中の通り道をしばらく吹き閉ざしておいてほしい、だってあの乙女たちの姿をもうしばらく見ていたいのだから、と歌ったのです。五人の舞姫を天女にたとえて、まだ天に帰っちゃだめだ、そうだ、雲に頼んで帰り道を塞いでもらおう、ってわけですね。さすがは小野小町の彼氏だった深草少将、ロマンチストです。


こんなふうに古い歌を紐解きつつ、色々な歴史も知って、それから現代の私達が新しい歌を詠んでいきます。あらかじめ一回みんなで集まって、色々下調べをする集いなどを開いた上で、本番に向けて歌を作り始めるといいかもしれませんね。


それぞれの作った歌は随時コルクボードやメールなどで事前披露していきますが、未発表の数首も当日のサプライズとして、各自用意しておきましょう。


歌会の当日は、束帯や十二単で集まる必要はありません(笑)。気軽に集まって、まずは新嘗祭なら収穫感謝のお食事会とか、五穀を練り込んだクッキーでお茶会など、気軽な集いから始めていきましょう。昔の歌会も、何かの宴から始まっていったに違いないのです。そして座が盛り上がってきたら、順繰りにそれぞれ自分の歌を披露していきます。


宮中の歌会始では、まず講師(こうじ)が節を付けずに読み上げ、次いで発声(はっせい)が節を付けながら第一句を吟誦、続けて第二句以降を四人の講頌(こうしょう)が合わせていくといった形で歌が披露されていきますが、イエ歌会では、自分で普通に読み上げてもよし、節を付けて吟じてもよし、自分で披露するより誰かに頼んだ方がいいと思えばそれもよしと、自由にやって行きましょう。BGM等を付けたい人は、そんな演出をしてもいいですね。


最初は事前に発表しておいた歌の披露から始めます。すでに発表した歌ですから、これなら恥ずかしくありませんね。さぁ、いよいよ未発表の歌の披露に入ります。誰の歌から?私恥ずかしいよ〜、じゃーんけーん…、なんて感じで。あるいは事前に筆跡が分からないようにPCでプリントアウトした紙を各自で用意してきて、それを箱の中に入れ、抽選会みたいに一枚ずつ取り出して読み上げて誰の歌か当てっこする、なんていう企画も楽しそうです。色々工夫して、楽しくやっていきましょう。最後は集まった全ての歌を箱に入れてシャッフル、一枚取り出してそれを全員で吟誦、なんていう締め方をするといいかもしれません。さぁ、誰の歌がトリを飾るでしょうか。


なんていう、カジュアルな現代の歌会。歌を詠むための言葉は、雅な古語でも、砕けた現代語でも、何でも有りにしましょう。楽しく過ごすためのお約束は、
・他の人のセンス、作風、作品の質などを否定、批判しない
・でも、良いところは思い切りほめる
・堅苦しくしないで、気軽に歌を楽しむ
といったところでしょうか。何回か歌会を楽しんだら、集まった歌をまとめて小冊子にしたりしても楽しそうですね。定期的に開き続けられれば、いつか万葉集古今和歌集にも負けない「イエ和歌集」が作れるかもしれません。


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★★ ミシュランコメント

短歌というご趣味を超えて、文学とともに暮らしや四季を楽しんでいらっしゃるからこそ、ここまでつまびらかにご提案いただけるんだなぁとつくづく感じ入りました! そして短歌・和歌というジャンルには、日本文化・歴史の学びがあり、感受性や心を磨くエッセンスが凝縮されていて、創作するという楽しみも! こんなに豊かさを秘めた日本の短歌をあらためて見直しました。レスでも、七七・七五形式の「都々逸」が紹介され、「春はみやびに短歌コース、夏は着流しに浴衣で都々逸大会なんていう趣向も面白そう」「日本の伝統文化を今の暮らしに思いっきり生かして楽しんでいく新しい国風文化」と、さらにご提案が深められましたね。学びへの意欲をますます高めてくれる素敵なメッセージに、★★贈呈です!