「懐かしいイエの庭のニシキギの写真」by id:C2H5OH


私は物心が付くか付かないかの頃に、一度引っ越しを経験しているそうです。普通なら記憶に残らないはずのそのイエの、特に庭の様子を、私はハッキリと知っています。それは、庭いじりが好きな母が、四季折々の庭の様子を克明に写真に納めていたからでした。それを見て、私は自分が生まれたイエの様子を、記憶に刻みつけることが出来たのです。


家の前は広い空き地になっていて、庭との間は生け垣で区切られていました。生け垣といってもまばらに木が植えてあるだけで、ほとんど竹垣といった感じです。でもその見通しの良さがとてもいいのです。


特に印象的な一枚は、庭の一角に植えられていたニシキギの写真でした。真っ赤に紅葉したニシキギ
「きれいだねぇ。」
すると母は、もみじの歌の二番を歌ってくれました。

渓(たに)の流れに 散り浮く紅葉
波に揺られて 離れて寄って
赤や黄色の 色さまざまに
水の上にも 織る錦
(高野辰之作詞、岡野貞一作曲)


「この歌が出来たのは明治時代。でもきっともっと前から、ニシキギは山の錦と呼ばれていたと思うよ」
このやりとりもまた、子供心に印象的でした。

しかし今のイエの庭には、ニシキギがありませんでした。そこで私はニシキギを植えようと思いたちました。どこでニシキギが買えるのかも分からない子供でしたが、友達に聞いて回って、なんとか売っているお店は突き止めました。でも毎月決まった小遣いをもらっていなかった私には、すぐに買える値段ではありませんでした。

お正月を過ぎ、お年玉で懐が温かくなった私は、さっそくニシキギの苗を買いに行きました。新春セールで、通常の値段よりずっと安く買えたようでした。意気揚々と自転車を漕いでイエに帰り、庭にいた父に「これ植えてくれ」。
「どうしたんだこれ。」
「お年玉で買ってきた。」
それを聞いた母が、「ぷっ、なんていうお年玉の使い方をするの」と吹き出していましたが、「お母さんへのプレゼントだよ、この木好きなんだろう」と言うと、最高のお年玉よと喜んでくれました。

植え付けが終わったニシキギの横に立って記念写真。これも懐かしい一枚です。今もそのニシキギは、秋になると真っ赤に紅葉して、庭を美しく彩ってくれています。


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