「猫のいる光景」by id:YuzuPON


家族が揃うリビングで、すーすーと寝息を立てている猫。よく見ると、時々ヒゲがピクピクと動きます。誰かが「夢を見てるんだね」と言うと、猫は口をペチャペチャペチャ。あはは、食べ物の夢だ。こんな猫と家族の揃う部屋が、私の大好きなイエの光景です。


うちの猫はいつも寝てばかりですが、外の物音にだけは敏感です。庭で足音が聞こえると、寝ていてもピクッと耳が動きます。そしてガチャッと玄関の鍵を開ける音がすると、俊敏に立ち上がって、シュッと玄関に駆けていきます。そして猫なのに背筋を伸ばしていい姿勢で座って「にゃぁ〜」。礼儀正しい猫のお出迎えです。私も父も、毎晩このお出迎えを受けています。


その場で抱き上げたい気持ちをグッと堪えて、服を着替え、手を洗います。人間の風邪予防に手洗いが欠かせないのと同じように、猫の病気予防にも、こうした注意が欠かせません。外から帰ったら、猫に触れる前に必ず手洗いと着替え。これが鉄則です。その間に猫はリビングに戻って待っています。


でも、あらためて「ただいまー」と声を出しながらリビングに入っても、猫が喜んで飛びついてくることはありません。もう自分専用のクッションに乗って寝ているのです。まるで大仕事をやり遂げた満足感に浸っているかのよう。「せっかく帰ってきたんだから遊ぼうよ〜」と頭を撫でても、寝たままゴロンとお腹を上に向けるのが最大限のお愛想です。横着なやつw


こうして家族全員がリビングに集まってくつろぎはじめる夜。誰かが人差し指を口に当てて、しーっという動作をします。
「聞こえるね」
「聞こえる聞こえる」
みんなが猫に注目します。
寝ている猫の喉が、小さく密かにコロコロコロ…と鳴っているのです。こういう、撫でられてもいないのに鳴らす喉の音は、誰かが一人でも欠けていると聞こえてきません。家族全員が揃っている時だけに鳴らす、特別な音なんです。


犬は飼い主を群れの統率者として認識するそうですが、猫は飼い主を母親と認識すると言われています。うちの猫の場合は、家族全員が揃って、はじめてお母さんが帰ってきたと認識するのでしょう。誰かが一人でも欠ければ、それは100%のお母さんではないのです。とにかく家族全員が揃っている時の、猫の幸せそうな様子といったらありません。


そろそろ私も結婚をして独立を考える年齢ですが、こんな猫を見ていると、どうもこのイエを離れられそうにありません。結婚を申し込むより、両親と猫との同居を承諾してもらう方が何千倍もハードルが高そうだなぁと悩んだりしますが、それは今がこんなにも幸せだという証拠ですから、とても贅沢な悩みなのかもしれません。


ある時、父が首だけ窓の方に向けて、「こいつが野良だったころは、あそこに置いた段ボールの中で寒さをしのいでいたんだよなぁ」とつぶやきました。すると母が言いました。「人を恐がらない子だと思ってたけど、今思うとやっぱりいつも周りにビクビクしてたみたい」。
「そうだよな、そっと箱の中を覗くと、いつも縮こまって寝ていたよ」
「それに、ちょっと物音がすると、寝ててもピクッと耳が動くのよ」


身の安全を守るために、寝ている時も神経を研ぎ澄ませていた野良時代。それが今は、愛する家族の帰りを待つためだけに使われています。よくぞこんなに幸せになってくれたと抱きしめたくなってしまいますが、せっかくスヤスヤ寝ているのを起こしたら可哀想ですから、そーっと手の平を背中に乗せるだけにとどめます。


あーっ、でもたまらん、猫と遊びたい!そういう時は猫缶を手にとって、軽くコンと指で弾きます。とたんにガバッと起きあがる猫。続いて、早くくれくれと伸び上がって大騒ぎ。起こそうと思ったんじゃないよ、ちょっと手が滑って音がしちゃっただけなんだよと嘘の言い訳をしながら、しばらくこのかわいい猫のくれくれダンスを楽しんでから、缶詰をお皿に空けてあげます。


寝ている時の猫もかわいいですが、一心不乱に食べている猫もかわいいですね。こうしてわが家では、毎日同じだけど毎日が新鮮、そんな猫のいる光景が繰り返されていきます。猫のお陰で、わが家もこんなに幸せ家族になりました。ありがとう、猫!!


»このいわしのツリーはコチラから