「父がイキイキするお好み焼きの光景」by id:momokuri3


わが家のスペシャルイベントに、お好み焼きがあります。父はお好み焼きをこよなく愛する人で、焼くのも食べるのも大好きですから、お好み焼きをしようと決まった休日は、とてもハイテンションです。


父は若いころバンドをやっていて、当時日本のブルースバンドのメッカといわれていた関西でもよく活動していたそうです。そこで憶えたお好み焼きの味を再現するのが父の楽しみなんですね。


「まずは練りこみやでぇ」
怪しい関西弁です(笑)。練りこみとは混ぜ焼きのこと。生地に具や卵を混ぜ込んで焼く形式のお好み焼きです。
「練りこみのうまさは焼き上がった切り口で分かる。どうかな。おー、大成功だ。見ろ」


見ろと言われても、どうなったら成功でどうなったら失敗なのかてんでわかりませんが、父が焼いてくれるお好み焼きは、たしかにおいしいのです。私も大人になって、本場関西のお好み焼きを食べる機会が何度もありますが、父の焼いてくれるお好み焼きはそれに勝とも劣りません。


焦げるソースの香り。ひらひらと踊るカツオ節。これは本当に楽しい光景でした。そして何よりお好み焼きは話が弾みます。みんなの顔から笑顔がこぼれてきます。私はこの楽しいイエお好み焼きが大好きでした。


ある時友だちにこのことを話したら、ぜひ食べてみたいから今度やる時は呼んでくれと言われ、5人も大挙して家に押しかけてきたことがありました。この時の父の張りきりようと言っ
たらありませんでした。


「よし、何から焼こうか」
「肉の入ったやつ」
「肉か。最近は豚玉とか流行りだけど、ずっと昔はお好み焼きで肉と言ったら牛肉のことだったんだ。それでやってみるか?」
「うん!」
「賛成!」
「うまそう!」


もう、具から蘊蓄までありったけを出し尽くして大奮闘の大サービスでした。友人たちも、もう食えないというほど食べに食べまくった挙げ句に焼きそばまで平らげて、大満足をして帰ってくれました。ある意味これは父のライブ。ギターをお好み焼きのテコに持ち替えて、観客を沸かせたすてきなステージでした。


こんなイエお好み焼きは今でも続いています。相変わらず父は大張り切り。今でも時々あの頃の友人が、お前の父ちゃんのお好み食いてぇよとやってくることもあります。私はいつか、昔のロック喫茶のようなお店を開いてみたいという夢があります。が、こんな父を見ていると、親子でやるロックお好み焼き屋もいいなぁと思ってしまったりします。70年代のブルースとソースの香りが漂うお店。完全に父のテイストですが、それも悪くない夢だなぁと思ってクスッとしてしまう私です。


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