「我が家の冬の風物詩は柚子の香り」by id:watena


我が家の冬の訪れを実感させてくれる風景。それは柚子の香りです。子供の頃からそうでした。「ただいま」と玄関を開けると漂ってくる柚子の香り。お鍋の季節の到来だ。柚子湯の季節の到来だ。そして何より楽しみな柚子蜂蜜の季節がやってきた!毎朝の冷気にとっくに冬が来たことを知っていても、この柚子の香りで、本当に冬がやってきたんだなぁと実感するのです。
漂ってくる強い香りは、柚子を搾っている香り。一つ一つ皮を剥いて、布巾に包んで、手で果汁を搾ります。これは今夜の食卓が鍋になる前兆です。夕食が鍋の日は、父の帰りも早いしるし。子供の私はわくわくしながら夜になるのを待っていたものでした。
柚子を搾った日は、その残りカスがお風呂に持ち込まれます。絞るとほとんどが果汁になる温州蜜柑などと違って柚子はかなりの搾りカスが出るので、それを布きれに包んで湯船に沈めて使うのです。柚子を搾った日は父の帰りが早い日ですから、必ずといっていいほど「一緒に入ろう」と父から声がかかりました。とうに親と一緒に風呂に入る歳ではなくなっていましたが、この時ばかりは男同士の付き合いです。狭い湯船で肩を並べながら、柚子の香りのお風呂を楽しみました。
風呂から上がると、すっかりお鍋の支度が調っています。父は焼酎を柚子果汁で割って上機嫌。お鍋が終わってしばらくたつと決まって聞こえてくる母の声、「お父さん炬燵で寝ないでくださいよ」も、我が家の冬の風物詩でした。
もう一つの柚子の楽しみは柚子蜂蜜です。柚子をよく洗い、水分を拭き取ったら、適当に輪切りにして種を取り除き、熱湯消毒して焼酎で拭いた広口のジャム瓶の中一杯に満たします。そこに蜂蜜を注ぎ入れ、トントンとテーブルの上で瓶底を叩いて柚子の隙間の空気を追い出しながら口一杯まで満たしたら、あとは冷暗所で三日ほど。これでおいしい柚子蜂蜜の出来上がりです。我が家では柚子酒も漬けますが、柚子蜂蜜は出来上がりが早いのがいい所です。
出来上がった柚子蜂蜜の最も簡単な楽しみ方は蜂蜜部分をすくい取ってカップに適当な量を入れて湯を注ぐ蜂蜜柚子茶ですが、付け込んだ柚子の果肉もまた美味しい。崩さないようにそっとすくってお皿に乗せて、そのまま食べます。果肉を食べ終わったら、蜂蜜が付いたお皿も舐めちゃう。お行儀は良くありませんが、こんな美味しい物、もったいなくて残せません。寒天を煮溶かして柚子蜂蜜を混ぜて固めると、これまた美味しい柚子寒天も作れます。
こうして我が家の冬は、ずっと柚子の香りと共に在り続けます。それは今も変わりません。
なお、柚子果汁を搾る前に剥いた皮は、細切りにしてザルに広げて天日に干しておくと、夏まで保存がきく干し柚子皮になります。細切りの形のまま漬け物と一緒に漬け込んだり、ミルで挽いてうどんや煮物の上にまぶしたりと使い道が豊富です。
また搾った後や柚子蜂蜜を作った後に残る種は適当な瓶に入れ、種の高さの倍くらいの焼酎を注いで漬け込んでおくと、荒れた手などをスベスベにしてくれる一種の化粧水になります。アルコール分が高いので顔などには使えませんし、あかぎれなどになっている手にもだめですが、スーパーの店頭などに置いてあるアルコール消毒剤が使える手なら大丈夫。漬け込んで数日から使えます。柚子を大量に使う機会がありましたらお試しください。こんなふうに全く無駄がないのが柚子のいい所ですね。


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