「靴にまつわる言い伝え」by id:tough


よく言われるのは、日が暮れてから新しい靴をおろしてはいけないという話。これはきっと、履き慣れない靴で夜道を歩くのは危険という考え方からでしょうね。


天候の良くない日に新しい靴をおろすのも良くないといわれます。昔は砂利道が多かったですから、やはり履き慣れない靴で足元の良くない道を歩くことは避けるべきと考えられたのでしょう。また、雨の日に降ろした靴は、履くたびに雨に降られるという話もあります。


新しい靴をおろす時に靴底にペッと唾を吹きかけるのは、こうした縁起の低下を回復するおまじない。唾を吹きかけるという動作は、おそらく「ちちんぷいぷい」の発展形ではないかと思います。息を吹きかけるおまじないが派手になったのですね、きっと。


靴の裏に縁起のよい字を書いてから履くという習慣を持つ人もいます。その発展形でしょうか。夜や雨の日に靴をおろす時は靴底に炭を塗りつけるという話も聞いたことがあります。


こうした靴にまつわる言い伝えは極めて局地的で、地域というよりイエ単位で言い伝えられていることが多いようです。つまり同じ地域でも、イエが違うと、もう言い伝えも違うということです。


でも、わが親戚一同には、ちょっといい共通の言い伝えもあります。それは、子供が初めて履く靴は遠方から贈られると良い、というものです。贈り主が遠方であればあるほど、その子は健康に育つと言われています。


これはおそらく、初めて履く靴を贈ってくれる人は「這えば立て、立てば歩めの親心」を贈ってくれる第二の親とも言える存在であり、その子が育った時はきっと贈り主の所にお礼に行く、相手が遠ければ遠いほどそれに耐えられる丈夫な子に育つ、といった意味ではないかと思います。


とにかく、遠方であればあるほど喜ばれますから、一族に赤ちゃんが生まれると、誰が靴を贈る役目を請け負うかが話題になります。そしてその役目に決まった人は、遠くて会えない赤ちゃんをわが子のように思いつつ、そろそろ這いはじめたかとか、立っちは出来るようになったかなどと、文字通り遠くから成長を見守り続けることになるのです。


もっとも、実際に履かせる靴は、サイズや適する固さなどに個人差がありますから、現物ではなく商品券などの形で贈ることになりますが、それでも子供を思う心は、いささかも変わるものではありません。少子化と言われる今のような時代にこそ、こういう習慣を大切にしていきたいなぁと思います。


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