「お気に入りの本の扉絵を描こう」by id:Cocoa


扉絵。英語で言うとfrontispiece。本の扉部分を飾る絵のことです。コミック雑誌などの場合は、各作品の冒頭に付されるタイトルや作者名が入ったページのことを扉絵と呼びますね。それらは作品の内容を読者に印象づける、とても大切な役割を持っています。でも、扉絵が無い本もたくさんあります。子供の読む本も、学年が進むにつれて文字だけになっていき、扉絵のある本が少なくなります。


本をたくさん読みなさい。父も母もそう言いました。でも、マンガと違って、文章だけの本は、その世界に入り込むのに時間がかかります。子供はけっこうそれが苦手。特に挿絵がない本は、なかなか読む気が起きません。


「またマンガばかり読んで、少しは本も読みなさいよ」「だってぇ、絵がないとお話しに入っていけないんだもん」「なら自分で描けばいいじゃない」「あ…面白そう」。


ためしに、もう読んでお話しが頭に入っている本でやってみることにしました。画用紙を本と同じ大きさに切って、そこに色鉛筆で描いてみました。描けたら本に挟み込もうと思って、丁寧に時間を掛けて描きました。「出来た〜!」。本の表紙の次の所にそれを挟み込んで母に見せに行くと、立派な扉絵が出来たねと褒めてくれました。


「扉絵?」「そうよ、こういう所に入っている絵をそう呼ぶの。ちょっと待ってて。」
母が持ってきたのはエアメール用の便箋でした。薄い、透けるような紙です。
「本当はトレーシングペーパーっていう紙をかけるんだけどね。」
絵の裏に便箋の端を貼り付け、表側に折り返して絵の表面を覆って、サイズを合わせて綺麗に切ってくれました。
「ほらこれで豪華になったし、色鉛筆の粉で本が汚れることもないわよ。」
やったー!すごいー!私は大喜びで、すぐまた他の本の扉絵にも挑戦しはじめました。


そのうち描く本が無くなってしまったので、それまで持っていながらちゃんと読んでいなかった本も読みはじめました。すると不思議。どんな絵を描こうかなと思いながら読んでいると、文字だけの本なのに次々と物語の情景が頭の中に浮かんできます。私はどんどんお話しの中に引き込まれていきました。


一冊読んでは扉絵を描き、また一冊読んでは扉絵を描きを繰り返しているうちに、すっかり読書が好きになっていきました。読み終わってから描くこの扉絵は、いわば絵による読書感想文。本の余韻を楽しみながら絵を描く時間も、より物語の世界を深く理解させてくれる素敵な時間になりました。


私はけっして絵が上手な子供ではありませんでした。でも楽しんで描ければそれでいいんです。読んだお話が好きであればあるほど、いい絵が描けます。その頃の本も、自分で描いた扉絵も、みんな大切にとっておいてあります。大人になった今、それはとても大切な宝物です。絵が上手でなかった子供でも、そう思える絵が描けるんです。それは、素晴らしいお話しの力を借りて描いたからだと思います。


読んだ物語の絵を描いてみる。それで本の扉を飾ってみる。皆さんのお宅でも、ぜひやってみてください。本の世界も絵の世界も、何倍にも膨らみます。



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