「郵便週間にポスト掃除」by id:Fuel


小学生のころの話ですが、先生が郵便週間の話をしてくれました。時は明治4年3月1日(旧暦。新暦に直すと4月20日)。この日、東京、京都、大阪に「郵便役所」というのが開かれ、日本の郵便事業がはじまった。江戸時代の藩を廃止して府と県に変えた廃藩置県はこの年の夏のことだったから、それよりも郵便は早くはじまっていたわけだ。この郵便の誕生を祝う記念日から一週間が郵便週間なんだよと。


この話は休み時間のいい話題になりました。
「郵便の誕生日か、なんか祝ってやりたくなるな」
「誰を祝うんだよ」
「郵便局の人とか」
「祝われてもびっくりするだろ」
「じゃポスト」
「あー、汚いポストがあるよな、あれ掃除してやろうか」
「それはいいお祝いになるな」
「よし、郵便週間の土曜か日曜にポスト掃除をしよう」


当人たちにとっては、新しい遊びを思いついたくらいの感覚でした。しかし担任の先生に相談しに行くと、先生は「なんて奉仕の精神に溢れた子供たちだ」と大感激。職員室に拍手が湧いてしまうしまつで、私たちはそんな大それたことなのかとオロオロしてしまいました。


でもそこは子供です。誉められれば喜びますから、先生からの郵便局に話をしてあげようかという言葉も断って、放課後、子供だけで郵便局に行って相談してみることにしました。窓口で郵便の誕生を祝ってポスト掃除をしたいと言うと、こちらへどうぞと中に案内されて、局長さんが迎えてくれてまたまたびっくり。いよいよこれは大ごとになったとみんなビクビクしはじめましたが、ここまで来たら後には引けません。局長さんや局員さんと相談をして、私たちは町内にあるポストのうち、主な5個所を掃除して回ることにしました。


実行は土曜日になりました。ポスト掃除の基本は、固く絞った雑巾で拭くことです。小さなバケツを一つ、雑巾を人数分用意して、郵便局前に集合しました。目立ちたがり屋の子供たちですから、「郵便週間 ポストそうじ」と書いた段ボール製の看板まで用意しました。


土曜日も小さな窓口を開けている郵便局でしたので局員さんがいます。まず最初は局員さんに教えてもらいながら郵便局前のポスト掃除。局の前のポストですからけっこうきれいでしたが、それでも雑巾は真っ黒になりました。
「やっぱり外にある物だから、見かけより汚れてるんだね」
「うん、よそのはもっと汚れてるからやり甲斐あるね」
みんな乗ってきました。郵便物の差し入れ口のステンレスの部分は、汚れを取ってからきれいに乾拭き。ピカピカになりました。


「それでは引き続きあと4個所、よろしくお願いします」
「はいっ」
局員さんの前で朝礼のように気を付けをしながら元気に返事をして、私たちは町のポストに向かいました。それぞれ近くのお店などに理由をお話ししてバケツに水を汲ませてもらい、普段こんなに熱心に掃除なんてしたことないというくらい、ていねいに掃除しました。そうやっていくうちに、愛着が湧いてくるんですね。私たちはポストの友だちになったような、嬉しい気分になっていきました。


こうして全部掃除し終わって郵便局に戻って完了報告。帰り道はみんなでまた掃除したポストを見て回って、「きれいになったな」「いい郵便の誕生祝いになったな」と、意気揚々と家路につきました。とても充実感に溢れた土曜日になりました。


私は今も同じマチに住んでいますから、その時のポストを時々見ます。調べてみると、こういうポスト掃除は、けっこう各地で取り組まれているようですね。郵便も社会の動脈。ポストも大切なインフラです。大人になった今、また掃除させてもらうのも意義があるかもしれないと思ったりしています。


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