「光の不思議を目で見て体験!! 不要CDを利用した分光器の製作」
by id:TomCat


雨上がりの空に出る虹は、空気中の水滴がプリズムの役目をして作り出す物ですね。もう一つ、別の原理によって現れる虹もあります。たとえばクジャクの羽根。クジャクの羽根には虹のような美しい色が浮かび上がりますが、その色は見る角度によって変わります。あの虹色は、羽根の表面にある微細な凹凸の連続パターンで光が回折し(※1)、干渉(※2)しあった結果として現れるもの。こうした現象をもたらす光学的パターンを、ちょっと難しい言葉で「回折格子」と呼んだりします。
※1:媒質中を伝わる波動が障害物に出会った時、一見届かないと思われるような角度に回り込んでいく現象のこと。
※2:複数の波が重なり合って新しい波形が出来る現象のこと。


私たちの暮らしに身近な回折格子としては、CDやDVDがあります。CDを直接眺めるだけではぼんやりとした虹しか見えませんが、光を細くして当ててやると、本物の分光器で見るようなハッキリとした虹模様、つまり分光スペクトルを見ることが出来るんです。というわけで、前置きが長くなりましたが、さっそくCDを利用した「分光器」を作って、光の秘密の一端を覗いてみることにしましょう。


・・・・と、ここで私の製作例をご披露する予定でしたが、この投稿をまとめている間に、もっとずっと素晴らしい製作例が見つかりましたので、皆様にはそちらをお目に掛けることにしてみましょう。
兵庫県立尼崎西高等学校 吉田英一先生のサイト
http://www.venus.sannet.ne.jp/eyoshida/b01cd.htm
その名も「CD分光かたつむり」。形が可愛いですね。


CD分光器の原理は、CDの記録面にスリットを通した細い光を当て、それを斜めから覗く、というものですから、
1. 観測する光の入り口となるスリット
2. 観測する以外の光を遮断する暗箱
3. CDを保持する機構
4. 観測者が覗き込む穴
の4要素が揃えばどんな構造でもいいのですが、この「CD分光かたつむり」の素晴らしい所は、他の多くの製作例がCDをカットして得た小片を小箱の中にセットしているのに対して、こちらは丸のままのCDを傷つけず、そのまま組み込んでいる点なんですね。


不要物のCDを使うにしても、形有る物を切り刻んでしまうのは心が痛みます。また、CDをカットする作業には少々コツが要りますので、小さな子供向きではありません。その点これなら紙工作だけで完成させることが出来ますから、小学校一年生でも自分一人の力で作り上げることが出来そうです。


以下、製作に当たっての勘所などを述べていきます。


まず使う用紙についてですが、これには切り口が毛羽立ちにくいケント紙か特厚の上質紙が適しています。スリットの切り口が毛羽立ってしまうと、ちょっと観測精度が落ちてしまうからです。


スリットの切り抜きは、裏側にめくれが出ないよう、よく切れるカッターで作業してください。小さなお子さんが作る場合は、ここだけ大人の人がやってあげてくださいね。あるいは、スリット部分に使い終わったプリペイドカードなどを使うと、より優れた分光器とすることが可能です。適宜の大きさにカットしたカードをごく狭い間隔で並べて貼り付ければ、それでスリットの出来上がり。これなら小さな子供でも一人で工作できますね。予めカットしておいたカードをパーツとして手渡すようにしてあげれば、大人の手を借りずに全てを作り上げたという達成感が損なわれません。


箱の内側になる部分は光の反射を抑えるために黒く塗りますが、これには真っ黒で、下地が透けず、テカりが出にくい物を選んでください。この投稿を書くにあたって試作してみた私の分光器では、極太の水性顔料マーカーを使っています。もちろん使い古しのプリペイドカードなどをスリットに使う場合は、それも片面を黒く塗っておきます。


使用するCDには、PC売り場に置いてある無料サンプルCDなどが使えますが、規格化されたレーザー光以外の回折特性はCDによって異なりますので、何種類か用意して仮組みし、自然光で一番綺麗な虹が見えるものを選び出して使ってください。


あ、CDの記録面にキズや指紋などを付けてしまうと綺麗な虹が見えにくくなってしまいますので、子供さんには、基本的なCDの取り扱い方もよく教えてあげてくださいね。


さー、出来上がったら、これで色々な光を見て見ましょう。まず太陽光。スリットを直接太陽に向けて覗くと目を痛めますから、真っ白な紙に反射させて覗くようにします。どうですか? 七色の虹が見えますね。これが太陽光のスペクトルです。


そのほか、白熱灯、蛍光灯、LED電球、色んな光のスペクトルを観察してみてください。たとえば蛍光灯の場合は、蛍光体による虹色の連続スペクトルと重なって、水銀原子が発する紫・緑・オレンジ色の輝線スペクトルも見えるはずです。もし近所の水銀灯の街灯があったら、それも覗いてみると面白いですよ。こちらはよりハッキリとした輝線スペクトルが観察できると思います。


またスリットに色付き透明フィルム(いわゆる色セロハンのような物)をフィルターとして乗せて自然光を覗いてみると、赤のフィルムを通した光のスペクトルでは青部分が暗くなり、青のフィルムでは緑から赤にかけてが暗くなり、黄色のフィルムでは青から紫にかけてが暗くなる、といったことも観察できるはずです。これで、光に色が付くという現象は、白い光がセロハンの色に染められるのではなく、逆に白の中から反対の色(補色)が抜かれているのだ、ということが分かります。


使用に当たっての注意点は、

・強い光は白い紙などに反射させてから見る
・覗きながら歩かない


の2点くらいだと思います。


スリット部分を精密に作れば、こんな物でもちゃんとフラウンホーファー線(連続スペクトルの中にそれを分断するように入る暗線。太陽の上層や地球大気中に存在する元素によって特定周波数の光がスポット的に吸収されることで発生する)まで観察できますから、大人の科学ロマンも、きっと大いに掻き立ててくれることでしょう。さー、お父さんもお母さんも、お子さんと一緒に光の秘密探検に出発してください。


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