「キャンプで母と過ごした森の一夜」by id:YuzuPON


こちらでご紹介した軽トラをベースにしたキャンピングカー。この夏、これで母と一緒に出かけてみました。
http://q.hatena.ne.jp/1267765009/255893/#i255893
最初は私が留守番をして父母二人で行く計画になっていたんですが、父の都合で私が運転手役を引き受けることになったんです。


行った先は、そんなに遠方ではない、東京西部のキャンプ場です。軽と言えどもキャンピングカーですから中で寝ることが出来ますが、父があらかじめバンガローを予約していてくれたので、夜はそこで過ごすことになります。
現地到着。車を降りてチェックイン、早速バンガローに向かいました。バンガローの外観はログハウス風で、杉木立の中の斜面に建てられています。「へぇ、すてきなところね」と母。軽はやっぱりきついわぁと、早速床に寝転んでいます。「ちょ、寝転がるならシートくらい敷…」「手足伸ばすと気持ちいい〜」。おやおや。


バンガローは数棟あり、私達が借りたのはその中で一番小さな棟でした。内部は四畳半をちょっと横長にしたくらいの大きさですが、二人ならこれで十分です。


川が近いので、まずは涼みに行くことにしました。かなり上流部の川なので、水深は膝くらい。母はさっそく裾をまくり上げて、子供のようにはしゃぎながら川に入っていきました。
「あんたもいらっしゃいよ」
「いいよ、子供じゃあるまいし」
「あー、かわいくない」
手の平で水をすくい上げて、岸辺の私にばしゃっとかけてきます。アニメの女子高生ですか、あなたは(笑)。


あー、楽しかった。結局私も童心に返って、たっぷり川遊びをしてしまいました。そろそろキャンプ場のお楽しみ、夕食の準備です。バンガローは単にテントが木造になっただけといった設備で、キッチンも何も付いていません。でも、自然破壊につながる地面での焚き火でさえなければ、屋外でコンロなどを使うことは出来ます。今夜のメニューはもちろんバーベキュー。キャンプ場の規則では、過度の飲酒でなければお酒も可です。


バーベキューコンロに炭を入れて着火。いい感じに火が熾ってきました。焼き、かつ食べます。普段は小食に思えていた母が、この時ばかりは食べる食べる。私はもっぱら焼く係です。
「あんたはこういう時こまめだからいいわよね、次、シシトウ多めに刺して」
「はいはい」
ビールも開けます。母は何かのリミッターが外れたようにグイッとあおって「プハー」。とても楽しそうです。
「今ごろお父さん、イエで猫と寂しく飲んでるかしらね」
「いや、独身時代を思い出して案外楽しくやってるんじゃないの?」
「かもね」


食った食った、焼き係の私も、さすがにお腹が一杯です。このキャンプ場には夜間は静寂を守る規則があるので、とても静かで落ち着いた森の夜が訪れました。そんな雰囲気に誘われてか、母は自分の若いころの話をしはじめました。特にセンセーショナルな恋バナとかではない、ごく普通の日常の思い出です。笑ったり悩んだり、時には張り切ったり時には落ち込んだり。私が高校生だったころと何も変わらない時間。そんな時間が母にもあったんだなぁと、ちょっと不思議な気持ちになりました。
「ねぇ、こんな時、あなたならどうした?」
「うーん、何もできそうにないなぁ、だってさ…」
「やっぱりそうよね」
私もいつの間にか十代のころの気持ちに戻っていたようです。


翌日、キャンプ場をチェックアウト。
「急いで帰る?そのへんを少し走る?」
「もちろん走る!」
「じゃ、行こうか」
「行っけ〜!!」
母と息子ではない、友だちのような声の掛け合い。何かの距離がグッと近くなったような気がしました。最初は正直、母親と二人きりでキャンプなんて間が持つかなと少々気が重かったのですが、今はイエに帰って普通の親子に戻ってしまうのが、ちょっと残念なくらいに思えていました。家族全員で乗ることができない二人乗りの軽キャンパーだからこそ得られた、貴重なこの夏の思い出です。


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