「父の寝顔の写真で知った愛のカタチ」by id:TinkerBell


女の子には、父親の存在が素直に受け入れられなくなる時期があります。
私にもそんな時期がありました。
ちょっと前までは一秒でも長くそばにいたい、大好きなお父さんだったのに、です。


なんとなく父と過ごす時間がぎくしゃくしはじめました。
それまでは何でも話せていたのに、隠しごとをしたいわけでもないのに、自分のことが話せなくなる。
父に指先が触れただけでギクッとしたように手を引っ込めてしまう。
年頃の女の子は誰でもそうなのだろうと思います。
そして、そんな時期をきっかけに、父親と娘というのはだんだん距離が離れてしまうものではないかと思います。


そんな私が今でも心の底から「お父さん大好き!」と言えるのは、その頃に見た一枚の写真のお陰だったかもしれません。
それは、父がテーブルに突っ伏して寝ている顔のアップでした。
母が、「お父さんかわいい〜」と笑いながら、その写真を見せに来たんです。


「古い写真を整理してたら出てきたのよ、ほら」
「へー、お父さん、ずいぶん若いね」
「そうねぇ、あなたが一歳ちょっとのころの写真だから」
「ふーん」
「この時ねぇ、あなたが風邪引いて熱出しちゃってね、お父さん、寝ずにあなたの看病をしてたのよ」


母は元ナースです。
私が付いているから安心して。
母はそう父に言いましたが、父は夜は自分が付きそうと言って聞かなかったのだそうです。
翌朝はそのまま一睡もせずに出勤。
仕事が終わるとまたすっ飛んで帰ってきて「明日は有休が取れたから今夜も自分が看病するぞ」。


もう熱も下がってるし食欲も出てきたから大丈夫よと言っても、父はもう一晩寝ずに付き添うの一点張り。
「そんなに心配なの?」
「いや、大丈夫なのは寝顔を見ればわかる、でも自分がそうしないではいられないんだ、頼むから今夜も一緒にいさせてくれ」
こうして父は、丸々二晩、一睡もせずに私の隣で夜を過ごしてくれたのだそうです。


そして翌日。
往診に来てくれた先生から「もう心配ありません」の一言を聞いて、やっと安心した父は、母に濃いお茶が飲みたいと頼んだそうです。
はいはい。
母がキッチンでお湯を沸かしてお茶を入れて持っていくと…。
父はもう、テーブルに突っ伏して爆睡していたそうです。
そこで母は、これぞシャッターチャンスとばかりにパチリ。


「ほら、よく見るとこのへん、ちょっとよだれ」
「やだー、かわいー」
「いい寝顔でしょう」
「うん」
「これがあなたを愛してくれている人の顔よ」
「うん…」


私は母に頼んで、その写真をもらいました。
今もその写真は、大切に持っています。
もしかしてあの時母は、父親と娘の間に生まれはじめた溝を埋めようと、この写真を見せたのかもしれません。
そう思うと、ちょっと作戦に引っかかってしまった悔しさがありますが、そんなのどうでもいいですよね。
愛は宝。
愛も、写真に写るんです。
宝物と言える写真を持っている人は幸せです。


»このいわしのツリーはコチラから