石ノ森章太郎ゆかりの地に行きました」by id:chinjuh


つい先週のことですが、漫画家の石ノ森章太郎さんゆかりの地を見てきました。
石ノ森章太郎ふるさと記念館は、宮城県登米市にあって、JR石越駅が最寄りです。そこからバスで30分くらいかかるのですが、そのバスが日に5往復くらいしかありません。9時19分の次は13時49分です。
こんなバスに誰が乗るんだろうと思ったら、出発の10分も前からご老人が6人くらい集まってきました。どこに何をしにいくのかわかりませんが、みなさん顔見知りです。
三月だというのに、前々日に雪がふって、あたりは雪景色です。空を大きな鳥が編隊を組んで飛んでいくのが見えました。やけに大きな鵜(う)がいたものだなと寝ぼけたことを考えていたら、土地のお婆ちゃんが「まだ白鳥がいるね」と言うので、ここは東京じゃないんだと思いました。カワウだなんて口走らなくてよかった。
やっと来たバスに乗って記念館に向かいます。どこまで行ってもいなかの道でした。途中に小さな町がなくもないんですが、人が住む場所より農地のほうが広いようなところです。
それでも途中からお客さんがどんどん乗ってきます。運転手さんが「車内混み合ってきましたので、お年寄りに席を譲ってください」とアナウンスすると、若い人が何人か席を立ちました。次のバス停でお年寄りが乗り込んできて、バスはすっかり満員です。
記念館に近づいてくると、バス停に「石森(いしのもり)」という地名が増えてきます。石ノ森章太郎というペンネームのもとになったのがこの地名だそうです。わたしは記念館前でバスを降りました。
ふるさと記念館自体はとても小さいです。石ノ森先生の肉筆原稿や、ゆかりの品などが展示されており、漫画やビデオを自由に閲覧できるコーナーがありました。漫画に夢中になりさえしなければ30分くらいで見てまわれるような感じです。
記念館のすぐ近くに、石ノ森章太郎さんの生家があります。木造の古い家で、昔はお母さんが商店をしていたそうです。今は市が管理しているということでした。
ごめんください、と戸をあけると、ボランティアの老婦人が「どうぞどうぞ」と招き入れてくれました。てっきり、受付をしているだけなのかと思ったら、一緒に家の中をまわっていろんな話を聞かせてくれました。
なんと、その方は石ノ森章太郎本人を知っているのです。
その方の弟さんだかが、石ノ森章太郎氏と同級生だとか、今日はいないけど章太郎さんの先生だった人もボランティアで来ることがあるとか、あっちの食堂のオーナーは、章太郎氏の弟さんだとか……当たり前のことですが、ここは本当に石ノ森章太郎氏のふるさとで、生の章太郎君を知っている人が大勢いるのです。
「昔はこのあたりは大きな町で、店が沢山あって、七夕や……わたしたちは "たが祭"というけれど、たか祭(高祭?)というのをやって、本当に賑やかだったんですけどね。わたしの弟が、七夕で一番楽しみなのは、小野寺さんち(石ノ森章太郎の本名)のだと言ってましたよ。章太郎さんは遊び好きで、器用で、頭がよくて、ちょうどこの二階から下を通る人を見ていて、滑車を使って七夕の飾りをがしゃんと落として人を驚かせたりしたものです。今は年寄りばかりの町になってしまって……」
実際に来るまでは、こんな話が聞けるなんて少しも考えていませんでした。てっきり間に合わせで作った記念館があって、展示を見るだけだろうと思っていたのに、ここにあるのは、ふるさとそのものの展示です。石ノ森章太郎を直に知っている人、話したことがある人が住んでいる町で、しかもそういった人たちと語らえる場所でした。
帰りは電車の都合でタクシーに乗ることにしたのですが、記念館のお姉さんが「タクシー会社はすぐそこにあるので、もうすこし記念館を見ていてください。電車に間に合うようにお呼びしますよ」ってとても親切にしてくれました。
ほんとうに来てよかった、そんな風に思える旅でした。


実は、石ノ森章太郎関係の施設は、石巻市ってところにもあるんですが、そっちはややアミューズメント寄りで、ファンなら絶対に登米市中田町石森字町の「ふるさと記念館」に行くべきです。交通の便は悪いけど、得難い体験ができると思います。
http://www.city.tome.miyagi.jp/kinenkan/


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