「あなたが訪れたマチ、出会った人〈旅先ふれあい物語〉」を教えて下さい

#053 お題
あなたが訪れたマチ、出会った人〈旅先ふれあい物語〉」を教えて下さい


“ルポ・タイトル”
「伊東の旅で過ごしたとある料理屋での一夜」
by ハザマ


これまでにも、岡山・牛窓やイタリア・ミラノやフィレンツェ、折々のテーマでマチとともに人との忘れ難い思い出を書いてきました。もっと旅の思い出あったかなと記憶のアルバムをひらいてみると、5年ほど前に訪れた伊豆での一夜を思い出しました。


春の日に友人とめぐった伊豆高原や城ヶ崎の大海原の絶景、ティータイムに訪れた伝統ある川奈ホテルのクラシカルな佇まいなど、自然豊かな伊東の素晴らしい風景はさまざまに目に焼き付いています。が、なんといっても心に残っているのは、夕食に出掛けた料亭と、そこで出会った大将と女将のご夫婦です。


伊東といえば海の幸、夕食には地元の美味しいものをいただきましょうと、とある料理屋さんの暖簾をくぐりました。小さな座敷席に座ると、私たちはさっそくおすすめの料理を尋ねました。すると、気風のいい感じの女将が出てくださいました。
「お造りは好きかい? 今日入ったのを盛ろうかね。それからキンメの煮付け、これは食べて欲しいねぇ。あと、まご茶も大将の自慢だよ」。
聞いているだけで美味しそうな伊東の名物料理を教えてくれて、出てきた料理は豪快な盛り付けと味わい! 私たちが感動しながらいただいていると、女将がやってきて声を掛けてくれます。
「ここらじゃね、キンメはうんと甘辛に煮付けるんだよ。旨いだろう?」
そして、伊東名物の「まご茶」は大将みずから運んで下さって、食べ方のご指南。
「たたいてヅケにしたアジも旨いが、この出汁が自慢なんでね。さっとかけて、さらさらっと早く食べるんだよ」。
噂に聞いていたまご茶漬け、アジにたくさんの薬味がきいて、これははじめて経験する美味しさかも!
「まご茶ってのはね、出汁をかけてまごまごしていると旨いところが逃げてしまうっていうんだね。だから少しずつささっと。さ、おかわりも」。
いただいている間じゅう、大将は座敷でまご茶奉行?! これも地元の名物を一番美味しく味わってもらおうという真心です。


大将と女将の心尽くしはそれだけにとどまりませんでした。
「これ、私からだ。食べてみな。昼に沢で採ってきたクレソンをおひたしにしたんだよ。採れたての出来たてだ」。
伊東は山菜も豊富なんだ〜、とごしょうばんにあずかっていると、今度は大将が。
「ひと口、本当に旨いもん食べてみるか? 待ってな」。
出てきたのは、ご飯の上に青々とした刻みネギです。
「知り合いが畑で作ってる極上の青ネギでね。さすがに品書きには出せないが、醤油をちょっとかけて、だまされたと思って食ってみな」。
ひと口いただいて、肉厚でピリリとした辛みの青ネギとご飯の何と美味しい、いや、旨いこと!


……どれも本当に忘れられない絶品の味ですが、「本当に旨いものを食べさせてやろう」という大将と女将の心意気とおしゃべりが何よりの御馳走だったことは言うまでもありません。旅で訪れ、常客になるわけでもない私たちに、まさに一期一会のもてなしでした。
「あんたたちが、あんまり旨そうに食べてくれるからさ」と笑っていた女将と大将。二人とも口は荒いですが(笑)、「旨い!」ということを教えてくれた真心のご夫婦は、伊東の旅とともにずっと胸に刻まれています。


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※今回の「いわし」ご投稿は3月25日(木)正午で終了とさせて頂きます。
※今回のピックアップ賞は3月26日(金)に「イエはてな」にて発表いたします。
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