「毛虫にまつわるお話三つ」by id:CandyPot


毛虫というと刺す虫がいたり、見た目が気持ち悪いのでキャーとなりがちだと思いますが、じつは毛虫は縁起がいいんです。たとえばこのページにある佐竹義重公甲冑の、兜の前立て。なにやら長い棒のような物の両側にポワポワしたものが付いていますが、これは熊の毛皮で作られていて、モチーフは毛虫です。
http://plaza.rakuten.co.jp/joukan/diary/200902110000/
なぜ毛虫?それには三つの意味があるらしいんです。
まず一つは、毛虫は常に前に進み、絶対に後退しないということ。あ、そうなんだ!言われてみると、毛虫のバックは見たことがない気がします。
次に毛虫は葉を食うところから「刃を喰う」の縁起担ぎで、戦の場での魔よけとなっていたということ。
最後が「源氏」。「げんじ」は古くは「けんし」「けむし」と発音されていたらしく、源氏の系統の武将には、とても神聖な音だったそうなんです。
そこで、佐竹義重公の兜の前立ては大きな毛虫。それにしても、こんなすごい兜で突進してこられたら、誰でもびっくりですね。


アメリカにも、毛虫にまつわる面白い言い伝えがあります。この毛虫はWoolly Bear Caterpillarと呼ばれている毛虫で、ずんぐりむっくりのかわいい姿をしています。色は前後が黒、真ん中が茶色。秋にこの毛虫を見つけて、茶色い部分が長ければその年の冬は暖かく、短ければ寒さが厳しいと言われています。科学的な根拠はないと思いますが、この言い伝えのある地方では、けっこう当たると信じられているらしいです。
日本でも、今年の日本海側は大雪で大変なことになっているようですが、寒さの厳しい場所では、冬が楽か厳しいかは切実な問題なんですね。それをずんぐり暖かそうな毛に覆われた、でもこれから冬を乗り越えなければならない毛虫さんに託して占う。なんかわかる気がします。


最後に毛虫にまつわるお話をもう一つ。ギリシャ神話の一節です。
コリントという所にローダンテという美しい娘がいました。やがてローダンテのもとに三人の青年がやってきてプロポーズ。でもやさしいローダンテは一人を選ぶなんてできません。困り果てて神殿に身を隠していると、そこに青年たちがやってきました。神殿の中にいたローダンテがあまりに美しかったので、青年たちは「あなたこそ私たちの信仰する女神だ」といって、彼女をアルテミスの台座に乗せようとしてしまったのです。それをアポロンが見とがめ、光の矢を放ちました。するとローダンテはバラの木になり、三人の青年たちはそれぞれ毛虫と蜜蜂と蝶に姿を変えてしまった…というお話です。
花に付き物の存在としてこうして描かれた三種類の生き物たち。蜜蜂や蝶はけっして嫌われ者ではなかったと思いますので、それと同列に描かれた毛虫も、当時のギリシャでは、当たり前の虫の一つとして受けとめられていたと思います。今の日本では毛虫は嫌われ者ですが、やっぱり毛虫も生きています。ちょっと愛情の目で見てあげると、何か新しい発見があるかもしれません。


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