「絵本で異なる世代をつなぐ」by id:Catnip


うちの家系には、ずっと子供たちの間をつなぎ続けている絵本があります。バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」です。


丘の上に建った小さな可愛い家。周りには一軒の家もありませんが、季節感と自然に恵まれた中に建つ家は幸せでした。でも、ある日を切っ掛けに、ちいさいおうちの周りはどんどん変わっていきました。まず道が出来ました。その道が段々広がって、たくさんの車が行き交うようになりました。やがて、ちいさいおうちは背の高い家などに囲まれてしまいました。ちいさいおうちは、もう一度お花畑やりんごの木々が見たいと思います…。


うちの親戚の子供はみなこの本を読んで大きくなったので、みなこの本の話が通じます。顔を合わせるとこの本の話が出て、そして意地悪そうな背の高い家に囲まれて寂しそうなちいさいおうちのことを思いだして、胸がキュンとなるのでした。


「でも最後はあの家、幸せになるんだよな」
誰かがそう言い出して、ああそうだった、あの家はまた田舎に移築されて幸せに暮らしていけるんだっけと胸をなで下ろしてホッとした気持ちになります。こんな話が、かなり歳の離れた親戚の間でも通じます。みな、同じ絵本の思い出を共有しているのです。


世代が近いと、本の補修跡の思い出まで一緒です。
「あそこのページ、はがれてテープで直してあるんだよな。」
「そうそう。いつもあのシーンを思い出すとテープのことも思い出すんだ。」
そうです。同じ本が、親戚の子供の間をずっと旅しているのです。


この本が子供たちの間を回り始めたのはもう何十年も前のことらしいですから、初代の本はもうおそらく形をとどめていないでしょう。私が読んだ本が何代目なのかも分かりません。でも、子供が生まれてある程度の年齢になるとどこからかこの絵本が回ってきて、その子が大きくなるとまた別の親戚の子供に回していく。ずっとそんな本のシェアが続いているのです。いよいよボロボロになって閲覧に耐えられなくなると、その家の人が新しい本に買い換えて次に回す。そんなことが続いています。


きっかけはおそらく、「うちの子に読ませてた絵本なんだけど使う?」「あらありがとう」的な所から始まったのだろうと思います。それが連鎖していくうちに同世代の子供たちの共通の思い出となっていき、その子供たちが親となった時に、この本をとても大切な物として次の世代の子供たちに読み継がせるようになった。きっとそんな歴史なのだろうと思います。


こんなふうにして、今もバートンの「ちいさいおうち」は、うちの親戚の子供たちの間を回っています。いつか私に子供が出来たら、きっとまた私の所にもやってくるのでしょう。


流行に左右されることなく良い本を世代を超えて読み継いでいく。特に児童書の世界ではこれが大切ではないでしょうか。ぐるーっと遠くを旅しながら、親世代と子世代の記憶をつないでいく。そんな絵本がある私達の家系は幸せだなぁと思います。


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