「屋形船で夕涼みの夜」by id:SweetJelly

ご招待を頂いて家族揃って乗った屋形船。お料理は純和風かと思ったら、先付は和風その物でしたが、続いて出てきたのは洋風のサラダ。そしてお刺身盛り合わせへと続き、次はなんとミートローフ。和洋交互に出てきます。でも味のつながりやバランスは全く違和感が無く、これはいわば創作和食。ここの板前さんすごいなぁと感心しながら戴いていると、いよいよ江戸前屋形船料理の花形、船内で揚げる天ぷらが始まりました。


ところが、どうも父の様子がおかしいのです。食欲無さそう。どうしたの?お父さんの大好きな天ぷらだよと声を掛けると、少し酔ったとのこと。屋形船の名誉のために言っておきますが、普通、屋形船は揺れません。たまにすれ違う船が立てる波で揺れることもありますが、それはすぐにおさまります。なのに、船酔いしちゃったの?そういえば父はとある原稿を頼まれていて、深夜過ぎても部屋に明かりが点いていることが多かったのでした。寝不足だったのかなぁ。


ちょっと夜風に当たってきていいかなと父。この屋形船には展望デッキが付いています。お母さん付き添ってあげてと言うと、せっかくご招待頂いたのに夫婦で席を外しては失礼だから一人でいいとのこと。でも、なんとなく心配だったので私がついていくことにしました。


展望デッキに上がると、夜風がとても気持ちいい。夜景も綺麗。しばらく潮風に吹かれていると、父はだいぶ元気になったようでした。よかったと思っていると、父が突然歌い始めました。父は邦楽畑の人ですから、屋形船に乗りながらそれに似合う邦楽を口ずさむならわかります。ところがこの時に歌い始めたのは、なんとサザン。しかも声まで桑田佳祐さんそっくりに真似ていたのです。えー、お父さん、そういう音楽が好きだったわけ?!でもそれが意外に上手なのでまたびっくり。歌っている横顔もなかなかダンディでした。


父は一曲歌い終わり、私の方を見ました。え?あ、えーと、わーパチパチ。小さく拍手をしてみせると、続いて二曲目を歌い始めました。今度は私も知っている曲です。途中から一緒に歌いました。二人の目が合って、父はにっこり。サビからハモれるかな?あ、できた、できた。自分で言うのもなんですが、これは洋上の素敵な二人だけのリサイタルでした。


歌い終わってしばらくまた、静かに夜風に吹かれました。さ、戻ろうか。父はすっかり元気を取り戻したようで、足取りは颯爽としていました。


船を下りて帰り道。母が、海の夜風は気持ちよかった?と聞くので、実はねぇと父の歌のことを話したら、父はやめろやめろと照れまくり。父によると、乗り物酔いはお酒に酔ったのと同じだからああいう歌も出ちゃうんだよ、とのことでしたが…そうなのかなぁ。今まで知らなかった父の新しい一面を発見した、素敵な納涼の夜でした。


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