「火鉢と遊ぶ」by id:momokuri3


はじめて火鉢という物を見たのは、お正月で行った、おじいちゃん、おばあちゃんの家でのことでした。それまでにも何度か訪れていましたが、いつも夏だったので、炭の入った火鉢は見たことがありませんでした。火鉢の周りは不思議な温かさ。まず最初は、そこでお餅を焼いてもらいました。


おばあちゃんのお持ちの焼き方は変わっています。炭を灰の中にうずめ、火力を弱くしてから餅網を乗せ、その上にお餅を置いたら、紙で出来たフードのような物をかぶせるのです。こうすることによって熱を効率よくお餅の周りに集中し、焦がさずふっくらと焼き上げるんですね。火の上に紙を乗せて燃えないの?見ている私はちょっとハラハラ。こんな珍しいやり方を見ているだけでも、子供にとってはすばらしい楽しみ、冬ならではの「イエ遊び」のひとつになりました。


続いての火鉢での遊びは、あぶり出しでした。ミカンの汁で絵や字を書いて、何と書いたかを当てっこしながら、浮き出す絵や文字の不思議を楽しみます。私のあぶり出しは、よく見るとうっすらと書いた跡に色が付いています。ミカン汁ですから当然ですね。ところが祖父の作ったあぶり出しは、よく見ても何の色も付いていません。すごいな、さすがはおじいちゃん、どうやって書くんだろうと思ったら、なんとおじいちゃんはお酢を使って書いていたのでした。
「酸っぱい物ならあぶり出しになるの?」
「そうねぇ、酸っぱくなくてもあぶり出しになる物があるんだけどね」
と、おばあちゃんがやってくれたのが、砂糖水によるあぶり出しでした。甘い物でもあぶり出しができるんだ。この驚きも楽しい思い出です。


次の火鉢遊びは、くるくるへびさん。これは、丸く切った紙をさらに螺旋状に切り、円の中心だった所を糸で吊って、ヘビのトグロのような形を作って火の上にかざす、というものでした。すると、紙のトグロが上昇気流に乗って回転します。ただそれだけといえばそれだけの遊びですが、螺旋の先にヘビの顔を書いてやってくれたので、私は「くるくるへびさん、くるくるへびさん」と大喜びでした。かわいいヘビさんがクルクル回る姿があまりに楽しかったので、その夜は白いヘビが回転しながら飛んでくる夢を見てしまったほどです。あとでその話をしたら、
「それは縁起がいいよ、白ヘビは神様のお使いなんだよ」
と言われました。


こうした火鉢を使った遊びには火災の危険が伴いますから、現代なら「とんでもない!」と叱られてしまいそうですが、昔はどこのイエにでもあった当たり前の道具でしたから、子供にとっても身近な存在だったんでしょうね。今の子供にこうした遊びを勧めるわけではありませんが、でも防火・消火の備えを十分にした上で楽しめるなら大丈夫。そうした注意が払える大人だからこそ楽しめる懐かし遊びというのもあるのかもしれません。わが家に火鉢がやってきて、今年が2度目の冬。あのころを思い出して、時々あぶり出しなどを楽しんでみています。



»このいわしのツリーはコチラから