「わが家に欠かせないモノ、それは砥石」by id:YuzuPON


DIY、とりわけ日曜大工好きの父がいるわが家では、どんな道具にも増して砥石が欠かせないモノになっています。ノミやカンナを研いでいる父は、とても楽しそうです。ピカピカに研ぎ上げて、光に透かして眺めては、鋼の美しさに浸っているようです。実際、日本の伝統の刃物というのは日本刀と同じで鍛造ですから、研ぎ上げると、それは美しいモノなんですね。


こういう父のいるイエですから、キッチンの刃物もピカピカです。母は、タマネギを切って涙を流したことがないと言うくらい。アクシデントで刃を欠いてしまっても、父に渡せば、玄人はだしの腕前で再生してくれます。


私も子供のころから工作好きでしたから、父にはよくお世話になりました。今は簡単な工作ならカッターナイフでやってしまう時代ですが、父はあれは危ないと、あまり使わせたがりませんでした。父の言葉を借りるならば、刃を折り取って使うアイデアは印刷工場で生まれたもので、紙を切るにあたって常に良い切れ味を保つ工夫だったと。それを小刀のように使うのは目的外使用。折り取るための刃物に、折れる方向に力を加えれば、折れて当たり前。しかし折ろうと思わない時に折れれば事故が起こると。そこで私には、よく切れる小刀を買ってくれました。切れ味が悪くなれば、折る代わりに父が研いでくれます。これがいい親子のコミュニケーションにもなりました。私も父から研ぎ方を教わって、今はある程度なら自分で研げるようになりました。


砥石は使っていると、砥石自体が不均一に減っていきます。ですから刃物を研ぎ始める前には、まず砥石の調整が欠かせません。砥石を調整するための砥石というのもあるんです。うちで使っているのはセラミック製。それに金剛砂のような研磨剤と水をふりかけて使います。砥石のツラ直しはデッチの仕事。わが家では息子の私の役目でした。


「ゴシゴシゴシと。これで平らになったかな?」
「まだ黒い粉が砥石に付くうちはそこが凹んでいるということだ」
「よいしょよいしょ」
「軽く円を描くように磨っていくと早く仕上がる、直線に動かさずに、そうそう」
「あ、音が変わった」
「いいことに気付いた、砥石を見てみな」
「お、黒い粉が付いてない」
「砥石の角を軽く触ってみな」
「お、鋭いよ、砥石の角がもう刃物みたいになってる」
「上手にできた証拠だな。でもその角は擦って丸めないと研いでる間に指を切るぞ」
「あ、そうか」
「道具は手入れとともに安全も忘れずに」
「へーい」


こんなふうに父から子に技術の伝授。父も祖父から教わってきたそうです。こうして親子の触れ合いも磨いてくれた砥石は、今もわが家の色々な道具の中心です。


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