「ただそこにいるだけで人を幸せにできる人」by id:Oregano


私も猫好きですが、母はそれに輪をかけた猫好きです。時々母は猫を見て、心からそう思うというようにつぶやきます。
「猫って偉いわぁ、ただそこにいるだけで人を幸せにしちゃうんだから」


実は子供のころ、私も似た言葉をかけられていたんです。「○○ちゃんて偉いわぁ、そこにいるだけでこんなにお母さんを幸せにしてくれるんだから」。そう言われると私はうれしくてにっこり。もっとお母さんに幸せを感じてもらいたくて、もっといい子になりたいなんて思ったりしたものでした。


でも少し大きくなったころ、あれ?もしかしたらこれは母の策略?なんかおだてられて乗せられている?と思いはじめました。親子の世代的な断絶を意識し始める年頃になってからは、母のそんな口癖が、だんだん鬱陶しくなってくることもありました。


そしてある時、どうにも親の期待が重荷になりすぎると感じて、もうその言い方やめてくれと突き放すように言ったことがあったんです。一瞬は母びっくりしたようでしたが、それでも母は変わることがありませんでした。一つ変わったのは「○○ちゃんて偉いわ」の○○ちゃんが「あなた」に変わったことだけでした。もう子供じゃ無いんだから○○ちゃんはないわよね、これからはもっとふさわしい呼び方をするわって。反応するところはそこかい!w


以来ずっと母は、○○ちゃんをあなたに変えただけで、同じことを私に言い続けました。かなり親の期待を裏切るようなこともしてきましたが、それでも母の言葉は変わった試しがありませんでした。母は私を期待通りの人間に育てようとおだてていたわけではなく、逆にどんな人間に育ってもいい、どんなことがあっても子供は親の幸せなんだという気持ちをストレートに表してくれていたのかもしれません。


母は今、本当に心から猫に対して「あなたって偉いわぁ」と話しかけています。それを聞くと、おいおいあんたの息子は猫と同じレベルだったんですかいと突っ込みたくなりますが、今は私も猫を膝に抱き寄せて、「俺もお前みたいに、いるだけで人を幸せに出来るようになりたいよ」なんてつぶやいてみたりしています。


母も、そばにいてくれるだけで私を幸せにしてくれる人です。もしかすると母は、自分自身がそういう人になりたいと願いながら、この口癖を繰り返していたのかもしれません。そう思うと、どこか世間ズレしている母が、とても偉大ですばらしい人に思えてきます。
http://www.city.tome.miyagi.jp/kinenkan/


»このいわしのツリーはコチラから