イエ・ルポ 2

「ご両親に〈別荘〉をプレゼントしたご夫婦」by id:Cocoa


しばらく前にご近所に引っ越してきたご夫婦がいます。子供はいなくて二人住まいですが、頻繁に奥さんのご両親が訪ねてきます。奥さんとお母さんが一緒にお買い物に出かけたり、休日には四人で散歩している姿なども見られて、もうご両親はすっかり地域に馴染みきっています。
夏の終わりの日曜日に、このお宅のお庭で、バーベキューパーティーが開かれていました。もちろん出席者はこの家のご夫婦と奥さんのご両親の四人です。通りすがりに目が合ってご挨拶したら、あなたも一緒にどう?とお招きを頂いてしまいました。お言葉に甘えてお邪魔して、とてもご馳走になってしまいましたが、何より素敵だったのは、そんなお付き合いがご縁で、このご夫婦ととても仲良くなれたことでした。そして後日、なぜ奥さんのご両親がこうも頻繁に訪ねてくるのか、その秘密を知ることができたのです。
ご主人は早くにご両親を亡くされていて、結婚する時に一番嬉しかったのは、お父さんお母さんと呼べる人に再び巡り会えたことだったと言っていました。奥さんは、私じゃなくて親で選んだの?とご主人をどついていましたが、奥さんもそう言われて幸せそうでした。
このご夫婦が念願の庭付き一戸建てを手に入れる決意を固める切っ掛けになったのは、ご夫婦が同じ夜に見たという不思議な夢だったそうです。
夢の中で、ご夫婦はある中古物件を見に行きます。結局新築の夢は叶わないんだな、まぁ見るだけ見るか。そんな気持ちで中に入ってみると、なんと間取りが奥さんのご実家にとてもよく似ています。特にご両親が使っている部屋に相当する部屋は、窓の位置もそっくり。庭先の広さはずっと小さな物でしたが、あそことあそこに木を植えればそっくりになるじゃないかと、夢の中で語り合っていたそうです。
ご主人が食事の時にその夢の話をすると、奥さんも同じように夢を見ていたと分かって二人とも驚いたそうです。これは何かのお告げかもしれないと中古物件のチラシを注意してみていると、数ヶ月後に、奥さんのご実家ととてもよく似た物件に出会ったのだそうです。すぐに不動産屋さんに連絡を取って見に行くと、夢で見た物と同じではないものの、とても雰囲気が近かったのだそうです。
お二人の心の中に、また同じ考えが浮かんできました。この家に奥さんのご両親も呼び寄せたいと。しかし中高年と言ってもまだまだ中の方に近いお元気なご両親ですから、突然同居の話を持ちかけるのはいかにも将来の介護の都合を見越すようで、かえって嫌なお気持ちにさせてしまうかもしれません。そこで考えたのが「別荘」計画でした。ご実家でご両親が使っている部屋に相当する部屋を、置いてあるタンスの位置までそっくりに仕上げて、そこをご両親に自由に使ってもらう「別荘」にしてもらおうという計画です。ご両親は電車で2〜3時間の所にお住まいだそうですから「別荘」というには近すぎますが、「スープの冷めない距離」を楽しんでもらえたらと考えたそうです。
さっそくご両親部屋そっくり計画を実行に移し、新居を披露するからとご両親に泊まりがけで来ていただいて、そこで玄関の鍵の贈呈式を行ったそうです。キッチンの流し台やコンロ、棚の位置、お鍋やお皿や調味料などの位置までお母様が普段立っていらっしゃるキッチンと同じにレイアウトして、早速その夜は母と娘の二人が仲良く並んで夕食の支度をしたそうです。それから、まるで二世帯同居のような自由な行き来が始まったとのことでした。
玄関の鍵までお渡ししてプライバシーとか心配じゃないのかなぁと思ったら、ご主人がおっしゃるには、僕は全てをお見通しのお父さんと仲良く過ごしているマスオ君みたいなのがいいんだよとのこと。奥さんがおっしゃるには、波平さんとマスオさんみたいに二人して女性陣に隠れて悪さをするいい仲間なのよとのことでした。核家族でありながら二世帯同居のような暮らし方。お日様も笑っているような、とっても素敵なご家族です。