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「和建具の機能的特徴を現代の暮らしに生かす」by id:TomCat


建具とは、建物や部屋の開口部に設置される開閉できる仕切りとその枠などの総称ですが、日本の建具の特徴は、その仕切りの曖昧さにあります。構造的に脆弱で、声も音も筒抜け。ほとんどカーテンで仕切っているに等しい状態です。


しかしこれが日本のライフスタイルだったんですね。部屋と部屋とをきっちり仕切らない。家の中に閉鎖空間を作らない。部屋でありながら、ワンルームの中の一コーナーのような開放感を兼ね備える。それが日本の建具の特徴だろうと思うんです。


こういう、カチッと仕切らない建具で作られた家だったからこそ、「四畳半」なんていう、洋風建築では考えられない狭さの部屋が、ずっと日本のお茶の間の標準サイズだったんですね。閉めると壁のように空間を遮断する洋建具が普及するにつれて、四畳半というサイズは消えていきました。


さて、そんな開放的な和建具の特徴を現代に生かしている例を、一つご紹介してみたいと思います。いえ、障子だの襖だのと言った和のアイテムを使っているわけではありません。そうではなく、曖昧にしかエリアを区切らないという和建具の時代の日本のライフスタイルが、現代に生きている例なんです。


それは、どばんとデカいワンルームに住んでいる友人の例。彼の部屋は、だいたい30畳くらいあるでしょうか。やたら広いですが、オフィスだった物件をコンバージョンした賃貸なのでけっこう安いんだとは彼の弁。昔はきっとその部屋に、いくつもの机が並べられていたんでしょうね。


そんな部屋に住む彼がやっているのは、絨毯でエリアを区切る部屋のレイアウトです。ここは応接のエリア、ここはリビングのエリア、ここは書斎のエリア・・・・といった感じに、絨毯でエリアを仕切っているんですね。


これはいわば、和建具の敷居に相当するアイデアと言えるでしょう。昔の日本家屋では、襖は常時開けっ放し、敷居だけで部屋の区切りを示す、なんていう住まい方がよく行われていました。


絨毯と絨毯の間に露出するフローリングは、いわば廊下。絨毯の縁には、見えない襖や障子があるのかもしれません。


ベランダに面した掃き出し窓の際もフローリングのままで、絨毯は敷かれていません。これは縁側に相当する部分とのことで、床には座布団が置かれていました。窓を開けると本当に縁側のように楽しめるスペースです。


彼の部屋には、取り立てて和風の建具やアイテムはありません。しかしこの暮らし方は、伝統的な日本家屋のライフスタイルを、上手に現代に受け継いでいます。彼は奥さんと二人暮らしですが、二人別々のコーナーで別々のことをやっていても、「おーい」と呼べばすぐに「なあに」と声が返ってくる近さがとてもいいと言っています。


それって、じさまが土間で藁を打ちながら、囲炉裏端で繕い物をしているばさまに声をかけるようなもんだなと言ったら、その通りだと笑っていました。


こんなふうに、個室で区切られた家では実現出来ない家族の近さが楽しめる、伝統的な日本の家。その良さを、形を変えながら現代生活にも生かしていく工夫は、とても興味深いと思います。私も新たな家を建てることがあったら、ちょっと強度面で設計が難しくなるかもしれませんが、1階はだだっ広いワンルーム形式に出来たらいいな、などと考えています。