「Green thumb 緑の親指」by id:YuzuPON


園芸好きの方はご存じですよね。"have a green thumb"と言うと、植物の育て方の才能があるという意味になります。
他の国でもそういう表現はあるのかなと思ったら、イタリア語でも "avere il pollice verde" なんて言うんだそうです。"avere il"が「持っている」、"pollice"が「親指」、"verde"が「緑」の意で、全くそのままですね。
フランス語ではどうかなと思ったら、"avoir la main verte"という表現がありました。"avoir la"はイタリア語の"avere il"と同じです。"verte"も緑の意。イタリア語とフランス語は同じ言語系統に属していますから、なんか似てますよね。大きく違うのは"main" の語。これは「手」という意味なんです。フランスでは、指を通り越して「手」なんですね。


さて、植物を育てる才能。それは植物を地面で育ててみるとわかります。鉢やプランターにお店で買ってきた用土を入れ、そこに種を蒔いたり苗を植えたりするなら、誰でもほぼ失敗無く育てられます。
ところがそれに気をよくして、よーし今度はもっと一杯育てるぞと、庭を耕して畑にしたり花壇にしたりすると、プランターより伸び伸び根を張って育ってくれてもいいはずなのに、なぜかよく育たない、おかしいなぁ、ということがよくあります。
なぜそんな失敗が起こるかというと、地面は周囲の生態系とつながった自然環境の一部だから。
空き地を見ると、ある所ではシロツメクサが一面に広がり、ある空き地ではエノコログサなどの葉っぱの細い植物ばかりが茂る、といった特徴があることに気付くと思います。自然の世界ではこんなふうに、そこに育つことが出来る植物の種類がかなり限定されるのです。
ですから、人工的に植物を植えていく花壇や畑を作ろうと思ったら、育てたい植物に合致した「土作り」から始めなければなりません。それをしないで種をまいても、目的とする花はいまいちよく育たず、その地に合った自然の草、つまり雑草ばかりが生い茂る、という結果になりがちです。
こうした自然界が持つ植物の選択性は、単に肥料を与えても解決しません。土の質やpH、そして何より大切なのが土の中で生きている微生物などの小さな生き物。そういう目に見えない世界まで見えてくるような才能がないと、上手に植物を育てていくことは出来ないんですね。
「私は植物を枯らしてばかり、きっと緑の指じゃなく茶色の指の持ち主なんです」なんて言う人がいますが、本当は土作りの達人こそが植物育ての達人ですから、真の緑の親指の持ち主は、茶色い手をしているに違いありません。


ところで、こういう本をご存じでしょうか。


みどりのゆび (岩波少年文庫)

みどりのゆび (岩波少年文庫)


主人公は、裕福な家庭に育つ少年でした。しかし少年は、世の中の現実を知って行くにつれ、貧困や病気、そして戦争の悲惨さを目の当たりにしていきます。そして少年が知る衝撃の事実。少年の父親が経営する会社は、なんと兵器会社だったのです。少年の恵まれた暮らしは、戦争による利益で成り立っていたものだったのでした。
一方で少年は、自分の親指が様々な植物を生み出していく「緑の親指」であることに気付きます。戦争の悲惨さと父親の仕事を知った少年は、国と国との争いのために人々が殺し合うことをやめさせようと、その特別な力を使って、あることをはじめます。少年が「緑の親指」に託して行ったその行動とは……。


作者のモーリス・ドリュオンはフランス人。1918年、パリ生まれです。ナチス・ドイツの支配にレジスタンスとして抗した経験を持つ筆者が、生の戦争体験を経て書き上げた童話。それがこの物語です。


植物を愛する人は、平和も愛します。緑の親指は、平和を生み出す指でもあるんですね。私も、そういう指を持ちたいと思います。


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