★★★(三ツ星)

「東屋で雨の日が楽しめるイエ」by id:YuzuPON


今回は「プラン」とのことですので、全くの夢の構想を書かせていただきます。
東屋、つまり公園などにある休憩用の屋根だけの小屋ですね。あれが作れたらどんなにいいだろうと思うのです。敷地面積の関係で庭には無理そうですから、市街地で実現性があるのは屋上の利用です。
なぜ雨を楽しむテーマに東屋か。それは源氏物語の第五十帖、「東屋」に由来します。この巻名は浮舟の隠れ家にやってきた薫が詠んだ歌からとられています。
以下、『源氏物語 東屋 紫式部 與謝野晶子訳』青空文庫より引用。

こう言ってとめたのは弁の尼であった。雨脚(あめあし)がややはげしくなり、空は暗くばかりなっていく。宿直(とのい)の侍が怪しい語音(ごいん)で家の外を見まわりに歩き、
「建物の東南のくずれている所があぶない、お客の車を中へ入れてしまうものなら入れさせて門をしめてしまってくれ、こうした人の供の人間に油断ができないのだよ」
などと言い合っている声の聞こえてくるようなことも薫にとって気味の悪いはじめての経験であった。「さののわたりに家もあらなくに」(わりなくも降りくる雨か三輪が崎(さき))などと口ずさみながら、田舎(いなか)めいた縁の端にいるのであった。
さしとむるむぐらやしげき東屋(あづまや)のあまりほどふる雨そそぎかな
と言い、雨を払うために振った袖の追い風のかんばしさには、東国の荒武者どもも驚いたに違いない。


この時代の東屋とは「東国の簡素な作りの住居」の意でしたが、それを現代の東屋に置き換えて、屋根の下でありながら外とひとつながりの空間で、こんな古典の物語にも思いを馳せつつ、ゆったりと雨の日を楽しむイエにしてみたいのです。
現代の東屋的空間としては、デッキやテラス、ベランダなどの空間が考えられると思いますが、それらは必ず一面が母屋につながっていますから、東屋というより、縁側に近い存在と言えます。「外」と「中」の間であることは同じですが、「外」よりは「中」寄りの空間です。
これに対して東屋は母屋から完全に独立し、四方が「外」に囲まれます。東屋は屋根の下でありながらインドアではないのです。この開放感。この屋外にポツンと点として存在する侘びの感覚。これが雨の楽しみを何倍も膨らませてくれると思うのです。
東屋の周りには、葉の大きな植物をたくさん植えましょう。雨粒が滴ると、素敵な音を立ててくれるようにです。雨の日は、都会の空気も洗い流されてすがすがしくなっています。雨は市街地にも自然の気を運んでくれる貴重な現象ですから、それを「屋根のあるアウトドア」東屋で満喫できたらすばらしいと思います。


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★★★ ミシュランコメント

雨のお題に『源氏物語』、そぼ降る雨の庭に佇む「東屋」とそこに生まれる「侘び」の時空…。このメッセージは、意想外のオドロキとともに私たちを喜ばせてくれました! 「雨を楽しむ」を超えて、日本の詩的情緒の真骨頂ではありませんか? この詩美にあふれたイエ設計プランには、驚嘆のほかありません! 雨の音と風景と澄んだ空気、「外」と「中」をつなぐ「東屋」ないしは東屋的空間。『源氏物語』に登場するエピソードから想像もひろがる、生きる舞台としてのイエの構想に、感激をこめて★★★を贈ります!!