「伝統の知恵で緑を継承、親戚に学んだ土との触れ合い方」
by id:YuzuPON


ゴールデンウィーク中、父の田舎の親戚が上京してきていました。今では珍しい農業専業の家の人です。数日わが家にも滞在してくれることになりましたので、 “Green Week Action 2009”のことをお話しし、ぜひ土や緑と接していく基本を教えてもらいたいとお願いしてみました。もちろん上京してお疲れのところを土いじりなんて申し訳ないですから、私がやっているところを見てもらって、言葉だけでアドバイスをいただくつもりでした。ところが翌朝…。
おじさんはもう5時には土仕事ができる支度をして、遅いぞと私を待ってくれていたのです。最初の教訓は、植物の時間は夜明けと共に始まる、だから農作業も夜明けと共に。
私も農村の朝は早いと知っていましたが、それは時間がもったいないからだろうと思っていました。しかし農村に、そんな気ぜわしい暮らし方は無いのです。そうではなく、植物の時間に合わせて働いているから朝が早いのでした。朝一番から、目からウロコの状態でした。
さぁ、何をするかねと聞かれたので、このへんの土が荒れて固くなっているので、耕し直していい花壇にしたいんですというと、さっそく鍬を片手に手際よく耕し始めました。しかし思いのほか土の状態が悪く、これはちょっと深く掘って天地を返さないといけないなとのお言葉です。本来の天地返しは真冬に行います。厳冬の時期に土の内部を表面に出すことで土の中で越冬していた様々な生物を死滅させて、翌シーズンの病虫害や雑草を防ぐという農耕の知恵ですが、今は固まってしまった土をほぐして腐葉土などをすきこみ、よく空気を含んだフカフカな土にすることが目標です。
鍬の使い方ひとつにしても、プロは違います。鍬の重量をうまく使いながら、遠心力で振り上げ、自重で振り下ろしているようです。その回転軸をしっかり支えている様子が、腰が入っていると呼ばれるような状態のようです。しかし頭ではわかっても、体が付いていきません。ほらほら、もっと腰を入れて、と何度も同じことを言われてしまいました。私はほんの一畝耕すだけで体力を使い果たしてしまいました。
花壇にするスペースはまだあります。残りはおじさんが瞬く間に耕してしまいました。しかも掘り返す深さが私とはまるで違います。腐葉土をすき込むんだからもっと深く耕さないとと、私がやった畝もやり直してくれました。この土を自在に操る技術は、ちょっとやそっとでは身に付きそうにありません。
さて、土に腐葉土を入れていきます。腐葉土は庭で作った自家製です。おじさんに見てもらうと、いい黒い色をしているね、茶色のうちはまだ腐熟が足りない証拠だからね、形もちょうどいい具合だ、熟しすぎて粉みたいになってしまっては土壌改良の効果がないからね、過ぎたるは及ばざるがごとしっていうやつだね、とのこと。この腐葉土は大変お褒めをいただきましたが、実はこれは私ではなく、父が作った物だったのでした(苦笑)。
腐葉土は肥料というより土質改良材と考えます。葉の腐熟過程で生ずる粘性の物質が土の粉をゆるやかなまとまりの粒状にし(団粒化)、土がガチガチに固まるのを防ぐと同時に、通気性、保水力・保肥力を向上させます。この腐葉土のすき込みは私が全てやりました。
でもなぁとおじさんは言います。農家では腐葉土っていうのはあまり使わないんだよ、腐葉土は森の中の落ち葉と同じような物で熟成過程で高熱を出さないから、病害虫の卵や色んな病原菌が入ってくる恐れがある、そこで堆肥を作るわけだ、あれは発酵熱でもうもうと湯気が立ち上るけど、それが大切なんだよと。さらに腐葉土は別に肥料が必要だが堆肥はそれ自体に肥効があるから一石二鳥だしねとのこと。腐葉土と堆肥の違いもよくわかっていない私には大変勉強になりました。
なお、家庭で小規模に堆肥を作る場合は、発熱が期待できないので、別の方法で病害虫の侵入などを防ぐ工夫が欠かせないとのことでした。それをきちんと考慮して作らないと、植物に害を与える堆肥になってしまうとのことなのです。イエはてなで読んだ、生ゴミを古いストッキングに詰めて熟成させる方法はどうかと聞いてみると、それはとてもいいアイデアだ、堆肥作りの基本がわかっている人のやり方だねと絶賛していました。さすがイエはてなです。
そんなことを色々教えてもらいながら一緒に作業をしていて、ふと気が付きました。おじさんは、全く作業の手を休めないのです。鍬を振るうような重労働は長くは続けません。適当な所で中断して、あまり疲れない草むしりや、砂利を拾ってどけるなどの作業に移行します。そして疲れが取れると再び鍬を握ります。作業を重労働と軽労働に分け、それをうまく配分しながら動いていくから、不快な疲れを感じずに、いつも笑顔を絶やさない仕事が可能になるんですね。
おじさんはこんなことも教えてくれました。米も野菜も生き物だから、ストレスっていうのがあるんだよと。人間がストレスを感じながら作業をしていたり、怒りの念を振りまいたりしていると、やっぱり周囲の植物の生育にも影響が出てくる気がするよと。
こうした充実した学びの時間が約2時間。時計が朝の7時を指すころには、もうおじさんは、さっさと鍬の土を落とし始めていました。
「はい、今朝の作業はこれで終わり」
テレビで野球でも見ていればあっという間に過ぎてしまう時間の中で、すごくたくさんのことを学ぶことができました。本当はもっともっとたくさんの知恵が、農業という日本の伝統の中に満ちあふれているのだろうと思います。そういうものをもっと極めたくなってきました。時々父は、田舎に帰って農業をやりたいなぁと本気な顔をしてつぶやくことがあります。私はけっこう賛成です。
おじさんに教えてもらいながら土作りをしたのが先月の29 日。約一週間土を寝かせる必要があるとのことで、私はその間、ちょっと旅行に出かけていました。途中で立ち寄った町で野菜の朝市みたいのをやっていたので立ち寄ってみると、取れたてのさまざまな山菜が並べられていました。買いたいけど旅の途中だからと眺めるだけで立ち去ろうとすると、なんとコシアブラの苗木を発見しました。値段は税込み1本千円です。以前ネットで見た時にはたしか数千円していたはずと携帯でネットを検索してみると、やはり千円は激安でした。宅配便で発送してくれるかと聞くと、農協が対応するのでOKとの返事です。さっそく二株買って配送を依頼しました。
コシアブラはまだ栽培事例が少なく、その増殖にもノウハウの蓄積は少ないようですが、調べてみると林業試験場などで、
・実生
・挿し木
取り木
・分根
などの栽培試験が実施されているようです。
http://www.pref.shimane.lg.jp/nogyogijutsu/gijutsu/yakusou-sisin...
先日土作りをした花壇は、将来的にはこの2本から増やしていくコシアブラの専用コーナーにすることに決めました!!(勝手に決定!!)。伝統の農の知恵の一端を学んだ場で、今度は私が新しい作物の増殖ノウハウを研究して、日本の農にその成果をお返しする番です。なんてそんな大それたことは無理に決まっていますが、そのくらいの意気込みで取り組んでみたいと思っています。
将来、父の田舎でたくさん育てて、コシアブラの里として地域興しというのも夢があります。わが家の“Green Week Action 2009”はまだまだ終わりません。ここからが本番です!!


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