「電波で〈天空の夜明け〉の目撃者になってみよう」by id:Oregano


電離層というのがあります。高度80kmから500kmくらいの上空にある大気の層です。大気といってもこのくらい宇宙に近くなると、もはや気体は気体の状態ではいられなくなって、存在する窒素や酸素などは、分子から原子の状態に分解されてしまいます。そこに太陽光線その他の宇宙線があたると、強いエネルギーによって電子がはじき飛ばされます。この現象を光電離といいますが、地球の上層では燦々と降り注ぐ宇宙線によって、この光電離が絶え間なく続けられているのです。ちょっとややこしい話を書いてしまいましたが、とにかく遥か天空に存在する、光によって大気が不思議な状態に変化している世界を想像してみてください。
この天空の不思議世界は、電離しているわけですから、電波に対して様々な影響を及ぼします。その顕著な影響が、AMラジオに現れます。
夜、AMラジオをつけてみてください。そして普段聴いていない周波数をサーチしてみます。NHKは全国ほとんど同じ番組を放送していますから民放がいいですね。あ、CMが始まりました。何ちゃらコンサートのお知らせです。会場は、おぉ、北海道です。関東で北海道の放送が聞こえました…という感じで、夜のAM ラジオはほぼ全国一円が受信エリアになっています。さらにはアジア各国や、ホノルルあたりからの放送も聞こえて来ます。
あちこちサーチして、出来るだけ地方色豊かなローカル番組を探しましょう。最近はキー局の作る番組をそのまま流している局が多くなりました。全国どこでも同じ放送が聴けるメリットは大きいですが、夜は日本中にサービスエリアが広がるAMで、地域の個性が失われるのは残念なことだと思います。それでもよく探すと地方色豊かな放送がきっと見つかりますから、そういうのに出会ったら、じっくり没頭して聴いてください。やがて、夜が明けていきます。
すると…。地球のはるか上層。宇宙と地球との狭間にある電離層の様子が、朝日のエネルギーによって変化してきます。80km〜100kmくらいの低い位置の光電離が促進され、AM放送の電波はそこで吸収されるようになるのです。夜が明けるにしたがって遠くの電波は弱くなり、地上を進んでくる近くの放送局の電波しか聞こえなくなってきます。これが電離層の夜明けの様子です。
これであなたは、ラジオの前にいながらにして、はるか天空で繰り広げられる不思議な自然現象の目撃者となりました。AMラジオを通して観測したこのあたりの高度は、緯度こそ違いますが、極地ならオーロラが発生するあたりとほぼ重なります。私たちが住むあたりでオーロラのような現象を見ることは無理ですが、夜明けの電離層の変化は、地味であっても、現象としてはそれに匹敵するくらいの不思議でダイナミックな出来事です。想像力をたくましくしながら、ひととき、夜明けの不思議に心を遊ばせてみてください。
徹夜して観測するのもいいですが、早朝まだ暗いうちに早起きして、天空の夜明けの目撃者となった感動を胸に爽やかな一日を始めるというのもお勧めです。


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