ベンチャーズ・パイプライン」by id:C2H5OH


実は私は高校生の頃、ギター少年でした。ロック系のバンドを組んで活動していました。もちろんベンチャーズ世代ではありません。
私とベンチャーズとの出会いは、父の田舎でした。夏休みに家族で父の実家に泊まりに行った時のことです。父の古い友人という人が訪ねてきて、夏祭りでバンドをやりたいのだがギターが一人足りないので応援してくれと頼まれました。相手は父の同級生ですから、それこそ親子ほどに歳が離れています。ちょっと躊躇していると、演奏する曲目を録音してきたから、聞いてみて出来そうなら返事をくれとのことです。とりあえず受け取ってしまいました。
聞いてみたら、ベンチャーズでした。ダイアモンドヘッド、夜空の星、京都慕情、キャラバン、そしてパイプライン。ロックではありません。エレキというやつです。デンデケデケデケの世界です。
父が私を呼んで言いました。頼むから協力してやってくれと。これが大切な町おこしなんだと。古い曲でつまらないかもしれないが、他のメンバーの人にとっても自分達の世代の音楽ではない、観客の世代に合わせると必然的にあの時代の音楽になってしまうんだと。お父さんが出来なかった故郷への恩返しを代わってしてくれないかと。親戚の人もうんうんと横でうなずいています。断れません。わかったというと、さっそく練習用のギターが届けられました。
ベンチャーズはギターが二人です。私はどちらのパートをやればいいのかと聞いたら、もう一人のギターの人はデンデケデケデケ音のパートが専門だというので、私は必然的にメロディを弾くことになりました。今までやったことのないタイプの音楽でしたので、とても難しくて、乗りを掴むのに苦労しました。練習も年齢の離れた人たちと一緒なので、最初のうちは緊張しました。でも音楽って素晴らしいですね。全く世代が違うのに、楽器で語れるのです。
最初は田舎のオジサンバンドなんてと、甘く見ていました。ところが二十何年の年季が入ったミュージシャンは、アマチュアと言っても半端ではありません。楽器と心が一体になっています。だから、言葉ではなく音楽で会話が出来るのです。私のギターは無事皆さんに受け入れてもらえ、とても楽しく演奏が出来るようになりました。
いよいよ夏祭りのステージで本番です。事前にリハーサルも済ましていますから、オジサンたちはもう余裕です。しかし私は緊張しまくっていました。舞台に上がって4曲演奏が終わりました。4曲目が難しくて、一部とちってしまいました。ちょっと落ち込んでいると、ギターのオジサンが後ろからバンと背中を叩いて元気づけてくれました。そしてデケデケデケデケとイントロが始まりました。ラスト一曲が「パイプライン」でした。私のパートが始まると、みんなが私の方を見て微笑んでくれました。皆さんの暖かさに囲まれるようにして無事完奏。ジャーンと曲が終わると、司会の人が出てきて、
リードギター、○○地区出身、僕らの同級生○○君の息子、東京から応援に駆け付けてくれた高校生の○○君、もう一度盛大な拍手を」
と紹介してくれました。それでアンコールの声がかかって、パイプラインをもう一度。どんなライブより熱い真夏の夜になりました。
今でも時々思い出して、この曲を弾いてみることがあります。世代を超えて音楽で語り合えたあの夏の日が、私の青春デンデケデケデケでした。


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