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高校のころ、アイヌ民族の歴史や文化について調べたことがありました。
その時にとても興味深く思ったのがアイヌ模様です。
アイヌの伝統的衣服には独特の模様が施されていますが、
あれはただのデザインではなく、
アイヌの人たちにとってはとても重要な意味を持つものらしいのです。
もちろん一口にアイヌ模様といってもいろいろあって、
アイヌ文化は昔は本州東北部から北海道、
そして千島から樺太に至るまでの幅広い地域に広がっていましたから、
それぞれの地域ごとにちがいがあったそうです。
昔は衣装に施された模様を見ると出身地がわかるとまで言われていたそうですが、
でもだいたいの共通する考え方として、
一針一針ていねいに縫い込まれていくこの模様には、
身を守ってくれる結界のような力があると考えられていたらしいのです。
袖口だとか、襟、裾などにこの模様を施しておくと、服の中に悪い物が入り込みません。
また背中にも模様を施しておくと、無防備になりやすい背後が守られます。
こうして独特の模様が施された衣装ができあがっていったわけです。
衣服に用いられる模様は、刺繍で入れられるもののほか、
布を切り抜いて模様を入れていく「切抜(きりぬき)」、
別の布を張り合わせていく「切伏(きりぶせ)」といった技法で施されていきますが、
それらの技法は全て母から娘へと伝えられていきました。
またアイヌの女の子は、アイヌ模様の基本パターンを様々に組み合わせながらデザインしていくお絵かきを
砂の上などにして遊んだものだったのだそうです。
アイヌの娘が年ごろになり恋をすると、
好きな男性のためにテクンペという手甲を作って贈りました。
もちろんそこには鮮やかなアイヌ模様が施されます。
もし相手の男性がそれを身につけてくれたら、気持ちを受け入れてもらえた証拠です。
娘は続いて脚に巻く脚絆、頭に巻く鉢巻きを作って贈り、最後は服も作って贈ります。
そのどれもに心を込めた美しいアイヌ模様が施され、愛する男性を守るのです。
男性の方から告白する場合は、メノコマキリという小刀の鞘に模様を掘って贈ります。
もし娘がそれを腰に下げてくれれば、プロポーズは成功です。
夫になると、妻の使う針刺しや糸巻き、まな板にまでていねいに模様を彫刻していったそうです。
こうしてお互い、愛する人を守りあったんですね。
私たちはこうしたアイヌ模様についての調べ物を終えた後、
実際にアイヌ模様の刺繍で鉢巻きを作ってみました。
愛する人を守るために思いを込めて一針一針縫っていったアイヌの娘の気持ちがわかる気がしました。