イエコト・ミシュラン

「隠し味は地域奉仕・夜回りの後のナンチャッテ〈しし鍋〉」by id:YuzuPON


落語に、冬の夜回りの寒さを、しし鍋でねぎらう話があります。落語では番屋で酒盛りになってハメを外している所にお役人がやってきて大騒ぎになりますが、全てが終わって帰宅した後ならいくら飲んでも大丈夫ですから、わが家では特に父が町内の夜回りで出かけた日は、温かなナンチャッテしし鍋を作って帰りを待つのが恒例になっています。普通の夜回りはちょっと町内を回ってくるだけですが、父の場合は自治会の役員なので、何かと時間がかかるのです。
さて、わが家のナンチャッテしし鍋は、イノシシの肉など当然手に入りませんから、豚肉を使います。そのかわり量はたっぷりです。男をねぎらう料理ですから、量で勝負です。部位は背ロースが適しています。薄切りを使います。
その他の材料は、ゴボウ(粗めの笹掻きにして水にさらしてアクを抜く)、白菜、春菊、下仁田ネギ、シイタケあるいはシメジやエノキ、そして焼き豆腐などです。このうち最も大切なのはネギです。関東人は鍋といったら下仁田のネギが欠かせません。
以下、作り方です。
まず適当な鍋に、土鍋一杯に相当する日本酒をなみなみと注ぎます。しし鍋の日は、飲む分を含めて一升空けるつもりになります。
底に出し昆布を敷き、よく洗って付着物を落とした豚骨を、ラーメンのスープを取る時のように叩き割り、10cm程度物を2本くらい、1時間ほど土鍋の酒の中に漬けておきます。
鍋を火にかけ、弱火で1時間ほど煮出します。出し昆布は鍋が煮立ったら取りだしてください。大量のアルコールが飛びますので、この作業は食卓ではなく台所で行います。換気を良くして、グラグラ煮立てると鍋に火が入るので、火は強くしないように注意して出し汁を取ります。鍋に火が入ったら、まずコンロの火を止め、続いて蓋を被せて消火してください。
1時間ほど煮込んだら出し汁を漉して土鍋に移し、味噌を溶いて味付けをして、食卓の卓上コンロに運びます。肉と野菜を適宜入れ、火が通ったら食べられます。
タレというか、付けて食べる物は、わが家では手作り柚子果汁を使ったポン酢醤油に紅葉おろしと刻みアサツキを散らしたものを使っています。まったりとした味噌味に爽やかさが加わり、とてもおいしくいただけます。
よく空腹は最高のスパイスであるなどと言いますが、このしし鍋の場合は、地域のために寒空の下で頑張ってくるのが最高の隠し味になります。父もたまに私が夜回りに出る晩にこれの用意をして待っていてくれますが、冷え切った体には最高のご馳走です。