「失っていた自信を取り戻させてくれた友」by id:tough


練習中の不注意で、大切な仲間に大きな怪我をさせてしまったことがありました。入院するほどのものではありませんでしたが、直後に控えていた大会には、欠場を余儀なくされてしまいました。

それだけではありません。私自身、相手に怪我をさせてしまったことが恐れになり、格闘技なのに技が出せなくなってしまったのです。まんがの「あしたのジョー」で主人公の矢吹が、ライバル力石の不慮の死の後、パンチが打てなくなってしまったのと同じようなものです。そんな私を一番心配してくれたのは、当の怪我をさせてしまった友でした。

彼は毎日のように怪我をした体で練習に出てきて、私に色々とアドバイスをしてくれました。しかし私は、どうしてもここ一番という時にためらってしまう壁が乗り越えられずにいました。友はついに業を煮やして、私を呼びつけて怒鳴りました。それはこっぴどく怒鳴られました。しかし、いくら怒鳴られても、言葉を尽くして叱ってもらっても、頭ではわかっても、体がすくんでしまってだめなのです。おわかりいただけるでしょうか。目の前で相手の体が鈍い音を立てて変化していく様子。それが対戦中にスローモーションのように蘇ってきてしまう状態を。

しかし友は最後に一言、すばらしい言葉をくれました。

「お前は対戦相手を侮辱している。怪我をさせるのが恐いか。それは相手を二流以下と見下す態度だ。」

この言葉に、目からウロコが落ちる思いがしました。彼は「俺のような一流選手ならたとえ怪我をしてもこの程度だ。」とイタズラっぽく微笑んで、相手を信頼して思いきりいけと、拳をぎゅっと握ってエールを送ってくれました。

重くのしかかっていた何かがフッと軽くなったような気がして練習を再開すると、できるのです。躊躇なく技が繰り出せます。すっかり元に戻れました。見てくれ、俺できるよと彼の方を見ると、彼は私を見て男泣きに泣いてくれていました。


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