「いつも唇に歌のベストパートナー夫婦」by id:TomCat


♪カ〜〜リンカ カリンカ カリンカマヤ 庭には苺 私のマリンカ エイ!!
と男性のよく響く歌声が聞こえてきます。ご主人は大変なロシア民謡好きで、いつもこんな歌を口ずさんでいらっしゃいます。


ロシア民謡は腹の底のそのまた底から声を出していくような歌唱法で歌われますから、本当に歌が上手い人でないとサマになりませんが、このご主人の歌唱は本格的です。


奥様は日本の古い唱歌などがお好きです。この奥様の歌唱も本格的で、透き通った高音までよく伸びる歌声は、全くお歳を感じさせません。


このお二人が若かった頃は、「うたごえ運動」というのがとても盛んな時代でした。職場の労働組合や地域のサークルなど、とにかく人が集まる所「うたごえ」あり、という時代だったそうです。そして迎える「歌声喫茶」全盛期。まだカラオケなどというものが無かった時代の青年達は、合唱・シングアウトという形式で、歌うことを楽しんでいたのでした。


このご夫婦は、大学のうたごえサークルで知り合ったのだそうです。大学のサークルですから、歌を通した社会奉仕活動などもします。お二人でユニットを組み、注文があればどこへでも出かけて、アコーディオンを弾いたり歌唱指導をしたりして、音楽を楽しむひとときを「出前」して歩いたそうです。ある時は幼稚園で子供達と。ある時は地域祭りのような行事に。二人は引っ張りだこだったそうです。


しかし、時代と共に歌の楽しみ方が変わり、みんなで一緒に歌うという形式は、だんだんすたれていきました。また、二人が結婚して仕事や子育てに追われるようになったことも重なって、二人を結びつけてくれた「うたごえ」は、次第に遠い過去のものになってしまったそうです。


その歌への情熱が、ご主人の退職によって再び蘇ったのだそうです。今はとにかくご夫婦で、イエで歌うことを心ゆくまで楽しまれているご様子です。一人が歌うと、もう一人がすかさずハモリやオブリガートなどを付けていきます。昔取った杵柄で息はピッタリ。ご主人の庭いじりの時間も、奥様の洗濯物干しの時間も、すぐに二人合唱団のライブに早変わりします。


かっこいいなあと思ったのは、お散歩中に、鼻歌なのにすごくかっこよくお二人でハモっている姿でした。ちょうど床屋さんの前ですれ違ったんです。そしたら奥様が、


春は早うから 川辺の芦に
かにが店出し 床屋でござる
ちょっきん ちょっきん ちょっきんな
(あわて床屋 作詞・北原白秋


と歌い始めたんです。すかさずご主人がオブリガートを付けます。この歌はストーリー仕立てのコミカルな歌ですから、二番三番と進んで行くうちに、段々ミュージカルみたいになってきました。奥様が手でウサギのお耳を作り、ご主人がカニさんになり、それをチョキン。奥様は歌いながらキャーというような仕草をします。きっと大学時代、この演出で歌の出前をしていたのでしょう。ほんの数分のことでしたが、こんなに面白いゲリラ路上ライブはありませんでした。お二人とも、私も音楽が好きなのをご存じですから、きっと私のためにサービスしてくれたんだと思います。歌い終わったらVサインをして立ち去って行かれました。


いつも唇に歌。それも学生時代からのベストパートナーだからこそ可能な歌唱力と表現力。かっこいいなあ、素晴らしいなあと思います。普段の生活でも歌の呼吸と同じような以心伝心が働いているらしく、いつもベストパートナーぶりを見せてくれる、素敵なご夫婦です。


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