「祖母のいる光景」by id:SweetJelly


私は子供の頃、祖母と一緒の家に住んでいました。祖母は日舞の師範で、大変厳しい人なんです。ああいう世界は武芸に通じるところがあるようで、祖母の周りには、まるで武士のようなキリリとした気が漲っていました。祖母は一人で部屋でくつろぐような時も、常に姿勢を正し、背筋をすっくと伸ばして座っていました。
もちろん着ている物は全て和服です。髪を乱れなく結い上げ、シャキッと襟元が整えられた姿は、子供にはちょっと近寄りがたい雰囲気がありましたが、かっこいいなぁと憧れも持って見ていました。
祖母の部屋は純和室で、とても清楚にまとめられていました。余分な物は何も置きませんので、飾られた季節の花がとてもよく映えます。祖母はいつも自分で花を生け、部屋に飾っていました。花を生けている時の祖母は、とても優しい顔をしていました。いつものキリリとした厳しい表情が、とても優しい表情に変わっているのです。
そういう時は孫の私も近付きやすいので、ちょっと恐る恐るですが、おばあちゃん、と声をかけてみます。すると、こっちへおいでと呼んでくれて、この花は何々っていう名前なんだよ、おばあちゃんは若い頃、この花をいっぱい花束にしてもらったことがあってね、なんていう話もしてくれました。おそらくその花束を贈った人が、私のおじいちゃんにあたる人だと思います。
花を生け終わると、お茶の時間です。お茶といっても祖母のお茶はお抹茶です。手慣れた手つきでシャカシャカと点てて、はいどうぞと飲ませてくれます。お菓子はたいてい羊羹でした。お抹茶の苦さと羊羹の甘さが、厳しくて優しい祖母そのままのようで、祖母と過ごしたこのお茶の時間も忘れられません。
私はずっと、キリリとした気の漲る祖母の顔ばかりを見ていたと思います。でも今になってみると、優しい祖母の顔ばかりが思い出されます。
その後引っ越しをして祖母とは別々の家になりましたが、私の心に刻まれているイエの光景というと、引っ越した後の家よりも、祖母と一緒に過ごしていた家のことの方が強く思い浮かぶのです。


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