「父の創作子守り童話」by id:TinkerBell


子供のころ、金曜と土曜の晩は特別でした。パジャマに着替えてお布団で待っていると、父がやってきます。当時私はとても寝相の悪い子供だったので、ベッドは無理と、ずっと床に敷いたお布団で寝ていました。だから寝る前、お布団の上では暴れほうだいです。
ひとしきり暴れたあと、電気を消して、父と私はお布団に入ります。二人で仰向けになって横になります。南に大きな窓があって、カーテンは開けたままになっています。
月の明るい晩などには、夜空を流れていく雲がはっきり見えます。私は息をひそめながら、父の言葉を待ちます。心臓がドキドキしてきます。直前まで暴れていたからではありません。これから始まる父の創作童話を、わくわくしながら待っているのです。

月がきれいな夜だね。あぁ、西の空から何かが飛んでくる。目には見えないよ。でも月明かりに照らされながらそっと目をつぶると、ほぅら、見えてきた。あれは西の国の魔法使いだ」
私は言われるままに目をつぶります。そして父の語ってくれる見知らぬ国の魔法のお話を聞きながら、いつの間にか眠っていました。
曇りの晩のお話は、たとえばこんな感じではじまります。雲がだんだん低く降りてくる。空と地上が近くなってきた。ほら、目を閉じて耳を澄ませてごらん。何かが降りてくる音が聞こえるよ…みたいな。すると、星の国から地上を見に降りてきた水晶のカケラたちのお話がはじまります。
雨の夜は、くっついたり離れたりしながら遊んでいる雨粒たちのダンスのお話。風の強い晩には、空を渡ってやってくる龍のお話もありました。
今まで見たことも聞いたこともない不思議な世界のお話。私は目をつぶりながら、その光景を思い浮かべます。子供なので、すぐに私は夢の中。お話の結末を聞いたことは一度もありませんでした。でも、続きはきっと夢の中で見ていたのだろうと思います。朝起きると、一晩不思議な世界で遊んだ充実感でいっぱいでした。
目が覚めると、小さな私は、父に手を引かれて眠い目をこすりながら朝の洗面に向かいます。それが終わると、大好きな父と一日一緒に過ごせる、すてきな休日のはじまりでした。


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