「お蕎麦で楽しむ12ヶ月」by id:Fuel


江戸時代中期には、月末の日に蕎麦を食べる「三十日蕎麦(みそかそば)」という習慣がありました(それが大晦日だけに残ったのが現代の年越し蕎麦です)。この三十日蕎麦を現代に蘇らせて楽しもうではありませんか。日本全国には、それは様々な蕎麦があります。品種も様々、気候風土による味わいも、製法も、食べ方も様々。そんな各地の郷土色豊かなお蕎麦を取り寄せて、一年かけて「にっぽん蕎麦めぐりの旅」。これは楽しいイエ・イベントになると思います。


まず便宜的に、全国を11の地域に分けていきましょう。
・北海道地方
・東北地方
・関東地方
甲信越地方
北陸地方
・東海地方
近畿地方
・中国地方
四国地方
・九州地方
・沖縄地方


これはあくまで一例で、これとは違った地域分けをしても構いません。とにかく全国を11のブロックに分けてみます。そして毎月、それぞれの地方の特色あるお蕎麦を取り寄せて、月末に家族皆で味わいます。なぜ1年は12ヶ月なのに1つ少ない11ブロックとするのかは、最後までお読みいただければわかります。それでは「にっぽん蕎麦めぐりの旅」に出かけましょう。


たとえば北海道なら新得町新得そば。これは食べ方や調理法の種類ではなく、この地域で生産される蕎麦のブランド名(登録商標)ですが、新得町は品質に定評のある良質の蕎麦の生産地で、町内を通る国道は蕎麦ロードとして知られています。


東北地方には、山形県の内陸部で広く食べられている、板そばという変わった盛り付けの蕎麦があります。ザルではなく浅い木箱に盛りつけられるのです。しかも量は一般のザル蕎麦の3人前くらい。これを一人で平らげます。中心を盛り上げず、平たく盛るのも特徴です。


関東地方なら、たとえば東京の、あられそば。東京というとキュッと冷水で締めたザル蕎麦などがまず思い浮かびますが、これはドンブリに盛りつける温かい蕎麦。いわゆるかけそばの上に、薄い塩水で洗った生の小柱(青柳の貝柱)を乗せた物です。麺の上に直接乗せると小柱が沈んでしまうので、大きく切った海苔を置き、その上に小柱を乗せるといいですね。もちろん海苔は江戸前の浅草海苔です。


甲信越地方は信州が蕎麦の本場ですが、越後にも独特の、へぎそばというのがあります。つなぎに布海苔を使うのが特徴で、越後上布などの生産が盛んだった地域らしいお蕎麦です(布海苔は織物の糊付けにも使われますからね)。薬味は刻みネギとカラシが伝統的。ワサビが使われないのは、この地域でワサビが作られていなかったからです。今はワサビも使われますが、伝統を守るお蕎麦屋さんでは、カラシにしますかワサビにしますかと聞いてくれるようです。


北陸地方なら、たとえば福井県の越前そば。福井県は生産量全国上位の蕎麦どころで、蕎麦殻まで挽き込んで製粉するのがここの標準です。その風味の強い蕎麦に、薬味として大根おろしを合わせるのが特徴で、この味わいが何とも言えません。お蕎麦に大根、これは合います。


東海地方なら、たとえば飛騨地方の荘川そば。これは産地名を冠した地域ブランド名で、製法や食べ方はいたってシンプルですが、標高1200メートルの高原で栽培されるソバはとても良質。飛騨はわさびの名産地でもありますから、もちろん薬味にはそれを使います。


近畿地方は、たとえば兵庫県の出石そば(いずしそば)。出石皿そばと呼ばれる独特のスタイルが特徴で、幕末の頃、屋台で手軽な手塩皿に盛って供したことが起源と言われています。1皿は2〜3口程度の少量なので、5皿で1人前とするのが現代の標準です。1皿ごとに、刻みネギ、大根おろし、わさび、トロロ、さらに生卵など、多彩な薬味で楽しみます。


中国地方なら、たとえば島根県出雲そば出雲大社参拝の際に善男善女が食べた門前の店の蕎麦が発祥で、冷たい蕎麦の上に冷たいつゆをかけて食べる割子蕎麦のほか、茹でたての蕎麦をそのまま器に取って食べる釜揚げも好まれています。割子蕎麦は小さなお重のような器に小分けにして供せられ、3枚で1 人前が標準的です。


四国地方は、たとえば徳島県の祖谷そば。これも製法や食べ方の名称ではなく、産地名を冠した呼び名ですが、寒暖差が大きく霧が多い気候条件で育てられたソバは風味豊か。これをほとんどつなぎ無しで打ち上げる、太めの麺が特徴です。その昔、平家の落人の隠れ里で栽培されていた物と言われているそうです。


九州地方なら、たとえば鹿屋市の小薄そば。粘りの強い自然薯をつなぎとした、腰が強く喉越しの良い細麺です。自然薯と蕎麦粉はほぼ半々、水はほとんど加えませんので、打ってから時間がたっても風味や食感が劣化しにくいのが特徴です。この地方では蕎麦を打つと近所の人に配る伝統があるそうで、そのためにこうした製法が編み出されたのではないかと言われています。いい話ですね。


沖縄地方の伝統料理には、蕎麦粉を使った蕎麦は無いようですが、和風のだしで頂く沖縄そばは、「にっぽん蕎麦めぐりの旅」に入れてもいいですよね。麺にかん水が使用されることから中華麺に分類されていますが、本来はかん水ではなく、木灰に水を注いだ上澄みが用いられていました。一口に沖縄そばといっても、地域によって特色が異なります。


こうした日本各地の特色あるお蕎麦を1月から11月まで、月末に1食ずつ。そして大晦日には、自分の郷土のお蕎麦で年越し。これで1クール完結です。翌年は、各地方にある別のお蕎麦で、「にっぽん蕎麦めぐり“2週目”の旅」を楽しみましょう。


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