「千代紙コレクション」by id:MINT


私が集めているのは千代紙です。初めて千代紙を手にしたのは小学生の時でした。友だちが学校に千代紙の折り紙を持ってきていて、わぁきれいと言ったら、その中の一枚をくれたんです。お雛様の着物みたいなきれいな柄。その日一日、授業なんてそっちのけで、教科書を見るふりをして、ページの間に挟んだ千代紙を眺めていました。


家にもこういう紙を貼った小箱があったなぁと思い出して、帰って探してみるとありました。数種類の千代紙を貼り合わせて装飾した、かわいい小箱です。
わぁ、色んな模様がある。ここも、ここも、今日学校で見せてもらったのと違う。千代紙の模様って何種類くらいあるんだろう。すっかり千代紙に魅せられた私は、それからしばらく、千代紙の模様を模写するお絵かきにはまりました。実物を見ながらはもちろん、学校の図書室で千代紙のことを調べて、そこに載っている写真の模様も書き写しました。


中学生になってしばらく千代紙のことは忘れていましたが、友だちのお付き合いで入った手芸店に千代紙のコーナーがあって、そこでたくさんの千代紙たちと再会!全判(使われる和紙によって全判サイズは異なりますが、小判で90cm×60cm くらいの大きさです)の物は高価ですが、ワゴンの中には千代紙の端切れがいっぱい入っていて、そちらはとってもお手頃でした。思わず買ってしまい、そこから少しずつ千代紙集めがはじまっていきました。


いったい千代紙の模様って何種類ぐらいあるのでしょう。私はおそらく、伝統的な柄だけに限っても千種類は下らないと思います。
千代紙のもとは、京のみやこで上流階級の人たちが進物の上掛けなどに用いていた絵奉書だといわれています。奉書紙とはかつては宮中専用だったといわれる上質の和紙で、これが室町時代に幕府の公用に用いたことから、命令の紙、奉書紙と呼ばれるようになった物です。そういう上質な紙に季節の花などを美しく描いた物が絵奉書でした。
それが江戸に渡って、木版画によって刷られる江戸千代紙になりました。木版で刷っていきますから、お値段はずいぶん庶民的な物になりました。それでも手作業の多色刷りですから、刷り上がるまでには大変な手数がかかります。ものによっては数日かかって刷り上げる物もあるそうです。


今は千代紙の模様を機械で印刷した物も売っていますが、まだまだ昔ながらの手作業で木版刷りしている版元さんもあります。特に江戸千代紙の伝統を守り続けているのが、東京台東区にある「いせ辰」さんです。
http://www.tctv.ne.jp/miyakyo/tenpo/kikujudoIsetatsu/index.html
創業は元治元年(1864年)。ここのご主人の三代目だった人は特に歌舞伎界との親交が厚く、歌舞伎にちなんだ柄をたくさん作り出しています。きっと昔の娘たちは、ライブ会場でグッズに群がる女の子たちのように、かっこいい役者さんにちなんだ千代紙を、キャーキャー言いながら集めたりしたんでしょうね。


さて、私のコレクションですが、千代紙には大きな全判サイズから、折り紙の大きさに裁断された物まで多様なサイズがあります。しかも和紙は作られる地方や作り手によって使っている漉簀(すきず)や桁(けた)の大きさがまちまちですから、漉き上がる紙のサイズもまちまち。だから一つに束ねて重ねてしまっておくということができません。似たような大きさごとに分類して収納する必要があるんです。


さらに一口に千代紙といっても色々な種類があり、模様のいわれも様々ですから、そういう分類もしたくなります。同じ江戸の千代紙でも、上にも書いた歌舞伎の模様にちなんだ物はどちらかというと浮世絵の文化に近く、お人形さんの着物の模様のような物はどちらかというと友禅の文化に近いなどの違いがあります。


さらにやはりコレクターとしては、同じ模様の物を最低三枚は持ちたいんです。一枚は永久保存用。一枚は鑑賞用、一枚はそれでお雛様を作ったり、小箱に貼ったり、折り紙を作ったりする実用のためです。だからそれらの用途ごとに分けて保存する必要もあります。だって大切な永久保存用を切ってしまったりしたら大変ですから。


こんなふうに千代紙の収納は分類が細かくなって、すごく空間を消費してしまいます。そこで私の部屋のクローゼットは、一区画がまるまる千代紙専用になっています。クローゼットの内側の壁に本棚の棚板を受けるようなネジを取り付けて、自由な高さの棚板を何段も渡せるようにして、そこに色々なサイズの箱を引き出しのように入れて使っています。


どこに何が入っているかは、千代紙ノートに記録します。工作用千代紙の一部を切り取ってノートに貼り、そこに購入日付、お店、価格、種類やサイズ・模様のいわれなどのメモ、そして「い一番」とか「は五番」なんていう箱の番号を添え書きします。これを眺めているだけでもうっとり。心は花のお江戸にタイムスリップです。


あと、千代紙を束ねて表紙を付けた「手作り千代紙絵本」も作っています。文字は何も書かず、純粋に千代紙の模様と質感を楽しむ手作り本なんですよ。もちろん和綴じです。これは主に、たった一枚しか手に入らなかった端切れの千代紙などの保存用です。


手刷りの千代紙は、全く同じ模様でも、紙ごとに微妙に味わいが違います。だから全ての千代紙が一期一会。もうこれ持ってるからいらない、と言えないのが千代紙なんです。出会う全てがほしくなってしまう、ある意味泥沼てすね(笑)。いつか千代紙博物館なんて作りたいなぁと夢見ています。


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