「母のわらしべ長者物語」by id:Fuel


久し振りに母と一緒に歩いていると、歩道に薔薇が一枝落ちていました。こんなにきれいな花がもったいないと母が拾い上げ、しばらく歩いていくと、向こうから自転車の高校生がやってきて、それ私が落とした花なんです、今日卒業式で後輩からもらった花束で、とのこと。母がはいと花を手渡すと、高校生は、拾ってもらったお陰で大切な花が踏まれずに済んだととても喜んで、何かお礼をしたいんですがこんな物しか持ち合わせがないのでと、財布から2枚のマックカードを取り出しました。母も私も、そんな気遣いは無用ですからと辞退したのですが、拾ってもらって本当に嬉しかったのでぜひと言うので、ありがたくいただくことにしました。高校を卒業したその日に、大人の礼節を実践しようとした爽やかな高校生の姿。いい出会いでした。
せっかくだからこれで何か買って帰ろうかと、母と一緒に駅前方向へ。すると途中の道端で子供がぐずって困っているお母さんがいました。ご近所の方です。あらあらボクどうしたのと母が声をかけると、スーパーで買い物をしたらお菓子を買ってくれとねだったので、ダメと言って出てきたところ、とのこと。そのお母さんが、仕方ないわね、お菓子買ってあげるからと譲歩しても、子供はいっこうに落ち着く気配がありません。どうやらもうお菓子のことなんかより、自分の意志を聞き入れてもらえなかったことに腹を立てて、引っ込みが付かなくなっている様子です。
母がさっきもらったカードを私に見せて『いいよね?』と言った感じで目配せをしたので、私も『OK』と頷きました。母がしゃがんで、ぐずっている子供にカードを差し出して言いました。ねぇボク、ハンバーガー好きかな、これハンバーガーが買えるカードなんだけど、もうこんなふうにママを困らせないって約束してくれたら君にあげる。
私も、これ2枚あったら君のお腹じゃ食べきれないくらい買えるよ、そうだ、今日は逆に君のおごりでママにも何か買ってあげたらいいよ、と言うと、子供はこれで一気に傷つけられたプライドが癒されたらしく、にこにこ顔でカードを受け取ってくれました。
子供はかわりにとポケットからクシャクシャのレシートを取り出して、母に手渡しました。子供のお母さんは苦笑しながら、今そこのスーパーでレシートで応募すると旅行やお米が当たる懸賞をやっているんですよとのこと。子供なりの精一杯のかわいいお礼ですから、ありがたくいただくことにしました。
おばちゃんありがとー、ボクもありがとねーと手を振りながら別れ、せっかくだからこのレシートで応募してこようかとスーパーに行ってみたところ、レシートの金額は一口分の応募に十分足りる物でした。さっそく応募して、当たるかな、当たったら笑っちゃうねなどと言いながら家に帰りました。そしてその日は帰宅した父を囲んで、今日はこんな面白いことがあったんだと話に花が咲きました。
それからしばしの日が過ぎ、もうそんなことも忘れかけていたころ…。本当に当たっちゃったんです、魚沼産コシヒカリ10kg!一輪の薔薇が最後にはコシヒカリに。わらしべ長者ならぬ薔薇しべ長者だと大爆笑しつつ、花を落とした高校生や、レシートをくれた子供の心を思いながら、ありがたくいただきました。お礼の心にお礼の心が積み重なってお米になった、これは一つの奇跡です。おかしくもちょっぴり感動の、母のわらしべ長者物語でした。


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