「生徒会長選挙を競ったライバル」by id:C2H5OH


どこも同じようなものかもしれませんが、私が通っていた学校は特に無関心層が多く、生徒会役員選挙は毎回無投票が恒例でした。対立候補どころか、全く立候補者がいない役職も珍しくありませんでした。
私はそこを変えたい、生徒の生徒による生徒のための活動ができる生徒会を作りたいと思いました。私が立候補を検討しているという噂が流れると、さっそく対立して立候補を考える生徒が現れました。成績優秀、スポーツ万能、おまけに顔が良く女子から人気という、絵に描いたような優等生タイプの男です。彼を便宜的に出来杉君と呼ぶことにします。
出来杉君の立候補表明は、あっという間に校内を駆けめぐりました。先生方の信任も厚い出来杉君は、立候補の受付も始まっていない段階からもう当選したも同然の扱いです。私は瞳の中にメラメラと炎を燃やし、打倒出来杉君の決意を固めることになりました。
立候補の届け出を済ませると、双方政策発表です。出来杉君陣営は、風紀の確立、学業・クラブ双方の成績の向上といった、私に言わせればク○食らえの目標ばかりを掲げています。
私はスローガンとして「仲間」の二文字を選びました。志望校の滑り止めとしてここを受けた、そして志望校に蹴られてここにやってきた、だからこんな学校好きになれない、ここで出会う友も好きになれない、ここにはそういうやつが多い、俺もそうだった、でもよく見ろ、ここだって捨てたもんじゃない、ここを今支配しているのは無気力だ、無気力ということは俺達が自由に気力を注ぎ込んでいいということだ、ここを俺達の自由な真っ白いキャンバスと考えよう、そこにみんなの色をぶつけていこう、そしてただの隣人から仲間になっていこう。そんな今考えるとこっぱずかしい政策をまとめ、発表しました。
ポスターを貼り、ビラを配りと、近年になかった選挙風景が校内で繰り広げられました。出来杉君のクラブ活動成績向上政策は各運動部に支持を広げ、運動部はほとんど出来杉君の地盤になりました。元から文化部に顔が利く出来杉君ですから、クラブはほぼ掌握の状況です。ポスター貼りもビラ配りもボランティアだらけで、とりわけ女子の活動が盛んです。
そこにいくと私の方は数人の男子が嫌々付き合ってくれている程度。もう勝負は見えていました。
ところがです。蓋を開けてみると、かなり大差で私が当選してしまいました。出来杉君がやってきて、おめでとうと言ってくれました。そして、ここの生徒会は毎年、前年の会長が次期会長を事実上指名していくのが慣例になっていたこと、出来杉君が前年度の会長から後継指名を受けていたこと、しかし今回の選挙戦の盛り上がりを見た三年生たちが古い慣習を捨てようと私の支持にシフトしたことなどを教えてくれました。(うちの学校では三年生は役員から引退することになっていましたので、当時私達は二年生でした)
そしてさらに出来杉君は、もし自分が当選しても今までのような生徒会にはしたくないと思っていた、建前上前会長の路線を引き継ぐ選挙活動をやったが、当選したら君(私のこと)の政策で活動しようと思っていた、と言ってくれたのです。
今回の選挙は会長以外立候補者無し。他の役員は会長が指名して生徒総会で承認という手続きになりましたので、私は出来杉君を副会長に指名し、二人でタッグを組んでやっていくことにしました。それからの私達は二人で一人のような絶妙のコンビになって、生徒会活動に取り組んでいきました。特に文化祭や体育祭は忘れられない思い出になりました。
勉強は、会長が副会長に負けっ放しでは格好が付かないからと必死に張り合いましたが、こればかりは全く歯が立ちませんでした。二人で学校帰りに食べた立ち食い蕎麦も忘れられない思い出です。二人とも小遣いが足りないのは一緒で、一つの天ぷらを分け合って食べました。
こんなライバルから始まってかけがえのない親友になっていった出来杉君は、今でも私の大親友です。


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