「愛のパワーが奇跡を呼ぶかも・手作りのお守り」by id:C2H5OH


受験を間近に控えた冬のことでした。二つ年下のいとこの女の子が、お守り袋を縫っていました。傍らにはこんもりと房になった千羽鶴。いえ、正確にはそれは九百九十九羽の折り鶴で、最後の千羽目をこのお守り袋に入れて、大好きな先輩に渡そうという計画なのでした。
こうした手作りのお守りの伝統は各地にあります。たとえば沖縄では昔から手作りの袋に塩を入れた物をお守りとして持たせる習慣がありますし、勇壮な曳山で知られる唐津くんちの曳き子たちが襷のように体に掛けている組紐なども、元は妻や恋人が夫や彼氏の安全を願って手作りしたお守りだったと言われています。つまり日本のお守りには、社寺で祈祷を受けて神仏の加護が宿ると考えられている物と、大切な人のために手作りされて愛が宿っている物の二通りがあったわけですね。ですから、いとこの真心籠もる手作りのお守りも、立派なお守りの一種と言っていいわけです。
こんな物渡して喜んでもらえるかなぁと不安げに聞くので、俺なら喜ぶよ、こんなに一生懸命作ってくれた物ならなおさらだよと答えると、うんと言って頬を赤らめていました。
私の受験が間近に迫った日、いとこが家にやってきました。そして私にあのお守り袋を手渡して、ほとんど無言で帰っていきました。どうやらいとこの片思いは、このお守りを手渡す前に玉砕したようでした。
私は何とかいとこを励ましたいと思いました。そのためには何としても、このお守りのお陰で無事合格したというシナリオを完成させないといけません。模試での第一志望の判定はボロボロでした。ここから合格は奇跡に近いと思われました。その奇跡をやって見せないと失意のいとこは励ませないと思い、半ば投げかけていた勉強の総仕上げに、かなり必死に取り組みました。その結果、奇跡が起きました。
こんなふうに、人の思いが不可能を可能にしてくれたりすることもあるのですね。社寺とはまったく関係のない手作りのお守りでも、受け止めようによってはすごい力を発揮してくれることがあるのだとこの時知りました。いとこもその後いい彼氏が出来て幸せになったようです。めでたしめでたしです。


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