イエ・ルポ 2

「住民と学生たちが作り上げてきた文化と教育の街、東京都国立市by id:Oregano


直接通っていた大学があったわけではありませんが、少なからぬご縁があってよく訪れていたのが国立市でした。私が守りたいのは、ここを愛した住民や学生たちが手を取り合って作り上げてきた、文教地区にふさわしい数々の特徴です。
まず街の景観からご紹介しましょう。JR中央線国立駅からJR南武線谷保駅までを貫く通称「大学通り」は桜並木になっていて、春には満開の桜が、受験を乗り越えて見事栄冠を勝ち取った新入学生たちを迎えてくれます。
大学通り唯一の歩道橋はスロープが長くて普段は不人気ですが、桜の季節になると絶好のお花見ポイントとして大人気になります。歩道橋の上から眺める桜並木は本当に美しく、それだけでこの街が好きだと叫びたくなります。
国立市の大部分は、1950年代から一貫して「東京都文教地区建築条例」による文教地区に指定され続けています。その背景には戦争がありました。当時、隣接する立川市には米軍立川基地があり、朝鮮戦争勃発によって大挙して進駐してきた米兵相手の商売に沸き返っていたそうです。しかしその多くはいかがわしい商売で、隣接する国立も含めて、付近の治安と環境は悪化ていきました。
そこで立ち上がったのが国立を愛する住民と学生たちでした。国立は1920年代から大学を中心にした学園都市構想で発展したきた街だったので、ここには行動力のある学生がたくさんいたのです。地域住民と学生たちは協力し合いながら、再び戦争に汚されることのない街作りのために立ち上がりました。そして当時まだ公布されたばかりだった「東京都文教地区建築条例」を使って街を守ろうとする運動を始めたのです。この運動が実を結び、市内からいかがわしい商売が締め出され、同時に企業の食い物にされるような乱暴な開発なども禁止されて、現在に至っています。
これが、若い世代を豊かに育む学生の街として、また緑豊かで閑静な環境を保つ住宅街としての国立市の両面の良さを形作っています。
こうした地域住民と若い力による生き生きとした街作りの伝統は今も市政に生きていて、多摩地区では珍しい、地域のボス的市政が通用しない街になっています。
政府の思い通りにならない、市政を企業活動の道具にも使えないといった政財界両方の目の上のタンコブである国立市の財政は、はっきりいって苦しいようです。でも、大企業を誘致したり、乱開発を行ったりしても、それで住民の暮らしが豊かになったためしはありませんから、大学誘致から街作りが始まった伝統をいつまでも持ち続けて、他の街にない特徴的な街作りを続けていってほしいと思っています。
この街のイベントとしては市民まつりが有名で、文教地区の代表的な存在である一橋大学の学園祭との同時開催が特徴です。私は学生時代、自分の大学の行事よりこっちに燃えていました(笑)。このほか、さくらフェスティバルや、1100年以上の伝統を持つ谷保天満宮例大祭なども有名です。また国立市の特産品に朝顔があり、朝顔市も開かれています。
利権の道具としての発展ではない、本当に街を愛する人たちが作り上げてきた街の姿がここにはあります。そういうこの街の特徴がいつまでも守られ続けていくように願っています。