「手作りの浸けペン式万年筆」by id:Oregano


中学生の時、一本の木の棒に出会いました。太さは1cmほど、長さはちょうどボールペンくらいの、何かの切れ端です。しかし木質は緻密で固く、そしてとても美しいのです。おそらく樫の仲間の木ではないかと思われました。それを持って帰って、何にしようかと考えた結果、削り出してペン軸にすることにしました。カッターで削ろうとしたら刃が負けてポキポキと折れてしまうので、小刀で削っていくことにしました。そのくらい固くて緻密な材質だったのです。小刀で正確な丸軸に削り出していくのはとても難しい作業でしたが、ゆっくり時間をかけて削っていきました。
ペン先は、父のタンスの引き出しに入っていた、誤って踏んで軸を割ってしまったという、壊れた万年筆のペン先を用いることにしました。18金のなかなか立派なペン先です。割れた軸を分解してペン先を取り出し、ペン軸に切れ込みを入れて、ペン先の根元に2液混合エポキシ接着剤を塗りつけて押し込み固定しました。うまく固定できるか心配でしたが、結果はとても堅牢に作ることができました。
こうして作った万年筆のペン先を持った浸けペンというか、浸けペン式万年筆というかの妙な筆記用具は今でも健在です。軸がよく手に馴染み、書き疲れが無く、書き味がとても滑らかなので、手紙を書く時にとても重宝しています。今の時代に私が郵便というコミュニケーション手段を愛用しているのは、このペンがあるからではないかと思います。
何の塗装も施していないペン軸の木の肌は、使い込んでちょっと黒光りしています。18金のペン先はあくまで書き味滑らかですが、おそらくずっと使っている間に、私の運筆の特徴に合わせて、それなりにペン先が磨り減っているのではないかと思うのです。つまり使い込むことで私専用に調整されてきた最高のペン先ということです。木の軸は使い込むほどに味わいを増し、ペン先は使い込むほどに価値を増す、最高のペンです。


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