「父と大げんかした後…」by id:YuzuPON


3 年ちょっと前の出来事だったでしょうか。もういい大人の私が、こともあろうに父親と大げんかをしてしまったんです。きっかけは些細なことでしたが、ちょっとした言葉のあやが感情の行き違いを増幅して、ついに私は切れて、とても口汚く父親を罵ってしまいました。もちろん父も負けてはいません。お互い有り得ないくらいに互いを罵倒し合って、完全に感情対立が硬直化してしまいました。
「もうテメェなんぞ家族とは思わない」と私が言うと、父も「同じ言葉を返してやる」。これで完全に和解の糸口はなくなりました。父はプイと私に背を向けて、扉に八つ当たりするかのように激しい音を立てて、部屋を出て行きました。
おかしなもので、こういうケンカの時には、ケンカして激高している自分とは別に、こんなことを言ったら取り返しが付かなくなるぞとか、謝るなら今しかないぞといった冷静な状況判断をしている自分がいるんですよね。そのもう一人の自分が、もう手遅れだと判定を下してしまいました。私はガックリと力が抜けた気がしました。その日はまだそんなに遅い時間ではありませんでしたが、自室に籠もって出て行きませんでした。
翌日、わざと父と時間をずらして朝食を済ませ、無言で家を出ていきました。帰宅も、父と顔を合わせるのを避けて、わざと遅くに帰りました。そんな日がしばらく続きました。
こうした日々が積み重なっていくと、どんどん和解のチャンスが消えていきます。私たち親子はこのまま家庭内他人になっていくのかという予感が、だんだん濃厚になってきました。もう大人なんだし、このまま家を出て独立しようかとも考えましたが、そんなことを考え続けている間に、幼いころに父と遊んだ楽しい思い出がたくさん蘇ってきて、たまらなくなってきてしまいました。たとえ今後独立するにしても、父と仲直りしてからにしたい。そういう気持ちがどんどん強くなっていきました。でも、妙な意地が邪魔をして、自分から謝るということが出来ません。
そんなことを悶々と考えながら家に帰り着きました。玄関が見えてきます。私が小さかったころ、父はこのドアを元気良く開けて帰ってきては、おみやげがあるぞと私を呼んでくれました。あのころの私は、おみやげより、それを買ってきてくれる父の愛情が嬉しかったんです。おみやげを手渡してくれる父は、全身で私が好きだと言ってくれているようでした。
あのころに帰りたいと、本当に心からそう思いながらドアのノブに手を掛けると…、背後に人の気配を感じたんです。振り返ってみると、父が立っていました。どうやら私の帰りを待って、ずっと外にいてくれたらしいのです。父は、振り返った私の目の前に紙袋を差し出して、照れくさそうに「おみやげがあるぞ」と言ってくれやがりました!
この瞬間、私の涙腺は崩壊しました。なんという父。まるで私の心を読んだかのような…。あぁ、この人は本当に私の父なのだ、言葉で語る前から私の全てを知り尽くしている世界でただ一人の父親なのだ、その愛情は私が大人になってからも、どこも変わっていなかったのだ…と、そのことを知って、感激に涙が溢れました。
ちょっと普通の「うれし涙」とはニュアンスが違うかもしれませんが、私は「うれし涙」というテーマで、咄嗟にこのことを思い出してしまいました。


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