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私も恋をしました。
これが運命の出会いと思って、これが生涯ただ一つの恋だと思って、
真剣に相手の人のことを思いました。
でも、ふられちゃいました。
他に好きな人が出来ちゃったからって。
この時は落ち込みましたね。
人間て、あまりに悲しくなってしまうと、もう泣かないんですね。
感情がみんな消えちゃうんです。
そんなふうになってしまった私を気遣って、母が話しかけてくれました。
「親子だから気兼ねしないで聞くわよ、あの彼氏とは終わっちゃったのね?」
「そんなのわかっちゃうんだ」
「そりゃそうよ、恋してる最中の悩みなら、そんな抜け殻みたいにならないでしょう」
「でも私、泣いてないよ」
「親子だからね、泣いてなくてもわかっちゃう」
「ふぅん」
そんな淡々とした会話が続きました。
話の場が持たないと思ったのか、母は一度立ち上がって、紅茶をいれてきてくれました。
二人で無言でお茶を飲みながら、しばらく時間を過ごしました。
そして、ぽつりと母が言ったんです。
「恋をするならね、将来生まれてくる子に感謝される恋をなさい。大人の恋ってそういうものだから」
目から鱗が落ちるような気がしました。
もちろん瞬間的に何かがわかったわけではありません。
あの人は、家庭が持てるような恋の相手だったのかな。
もしそうだったとしても、壊れた恋に執着して無理矢理取り戻したとして、どんな家庭が作れるのかな。
あの人はとってもいい人だった。でも壊れた器に未来の家庭はちょっと入らないかも。
少しずつ心の区切りがついてきました。
そして、私すてきな相手と巡り会って、いい恋したと思う。
でも、これが育ったら将来新しい家庭ができあがるなんて考えてもみなかった。
大人の恋をするにはわたしがまだ子供すぎたのかも。
なんていう感じで、前後の脈絡はありませんが、色んなことにも気付きました。
そして、ふったのはあの人と相手の身勝手さばかりを責めて、
ふられたのは私と自分を悲劇の主人公に決めつけていた子供っぽさにも気が付きました。
何となく心が軽くなって、紅茶おいしいねと笑顔が出ました。
まだ大人の恋をするにはガキすぎる私ですが、
とりあえずいつか子供を持つ母になったら、
子供にこんなかっこいいことが言える母を目指したいと、
そういう大人に成長してからあらためて一世一代の恋と言えるものをしてみたいと、
今はそんなふうに思っています。
この一言はその時の自分も変えてくれましたが、
これから何十年も先の私の人生も左右してくれそうな言葉です。