「果たしたかった娘三代の温泉旅行」

「果たしたかった娘三代の温泉旅行」by ハザマ

ちょっとしめっぽい話になってしまいますが、今でも忘れられない贈り物の記憶があります。それは今から10数年前、本家に住む母方の祖母と母と私の3人で行くはずだった温泉旅行。祖母の足腰が弱って痛いと言いはじめた頃、これはと思い立って、当時私が住んでいた京都にふたりを招待して3人で鞍馬温泉に行こうと計画を立てました。ふたりとも喜んでくれて、宿も取り、3週間前に新幹線チケットも送りました。
ところが、直前になって祖母の体調が良くないと連絡があり、一旦取りやめに。以前から病院通いしていた糖尿病の加減が一時的に悪くなったのでした。その後、様子をみていたのですが、足腰の痛みも強くなる一方で、旅行は不安な状態がつづき…ある夏、祖母は急に倒れてそのまま逝ってしまいました。
倒れる夏まで、お盆とお正月はかならず会ってひとまず元気に話はしていました。けれど、母が嫁に出て一度も一緒に住んだことのないこの親子3人の水入らずの旅行は、私には少し特別なものでした。もちろんこれまでの感謝もあります。でもそれ以上に、おばあちゃんから出てきたお母さん、お母さんから出てきた私、と産んでくれてつながっている不思議な娘関係、本当の水入らずで一度数日を過ごしてみたかった。3人で一緒にお湯につかって、3人並んで背中を流して、宿でゆっくり聞いたことのない昔むかしの話を聞きたかった。おばあちゃんのお母さんの話も、娘時代の話も、お母さんが子供の頃の話も。
今思えば、京都でなくても実家のどこか近くでも行っておけばよかったな。果たしたかった、たった一度の娘三代旅行のプレゼント。今はこれも思い出に、母と一緒におばあちゃんを懐かしみたいと思います。


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