目覚めの習慣&思い出の〈我が家の朝の光景〉

#048 お題
目覚めの習慣&思い出の〈我が家の朝の光景〉」を教えて下さい


“ルポ・タイトル”
「母が父の整髪と行ってらっしゃい、〈これが愛だよ〉の40年」
by ハザマ


朝起こされると、ダイニングテーブルに焼き魚と大根おろしと納豆、ごはんにお味噌汁。平日、ひと足早く出掛ける父は、もう洗面と入念な髭剃りにかかっていて、母は、その日の父のワイシャツとネクタイと背広をハンガーに用意しはじめています。なぜかみんなダイニングであれこれと話を交わしながら、朝食をとったり忙しく準備したりであった我が実家の朝。


そして母が用意してくれたお弁当用のおかずを、私が自分のと弟のお弁当箱に詰めている頃には、父がすべての身支度を終え、ダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら、最後の仕上げを待っています。そう、まるで毎日の儀式のように行われる、父の整髪です。父は社会人になってから今日まで、超正確な七三分けを通している人です。母が柘植の櫛を持ってきて、先の尖った方で分け目をまっすぐに直し、全体を梳かして整える。これで準備完了とばかりに、「じゃ、行ってくる」と、父はブリーフケースを持って車に乗り込むのです。そこへ母は猫を抱いて玄関へ出て、車が見えなくなるまで猫の手を持って一緒に振っている…。私は高校を卒業し進学でイエを出るまで、毎朝この光景を見てきたものです。…が、今もこんな朝の儀式はずっとつづいているんですよ。


お髭を剃ることに比べたら簡単に違いない整髪なのに…何でそこだけ母なの? 私は不思議で聞いたことがありました。すると小学生の私に父が言ったことには、「バカ、野暮を言うんじゃないよ、これが愛だよ愛」。何だかちょっとニヤけている父と母。「はぁ…そうなんか…」と私。よくわかりませんでしたね、その時は(笑)。


また、こんなこともありました。親戚のうちに遊びに行っている時、叔父が夜勤で夕方から出勤の準備。叔父夫婦の間にもやはり不思議な行動を目の当たりにしたのです。着替え終わって椅子に座った叔父に、叔母が最後に靴下を履かせているのでした。まるで子供だと私が笑うと、また父が…「だから言ったろ、これが愛だよ愛」。「毎日のここんとこが肝心なんだよ、なぁーっ」と、叔父と叔母の肩を叩いて、何だか大人で盛り上がっています(笑)。ふ〜ん…この時に、なぁんとなくわかった気がしたものです。


ふむ、そうして束の間手を触れている時に、二人の間で何か確認めいた無言の通信が行われているらしい…。今なら、「欧米の人たちが出掛けにチューするみたいなもんね!」と言えば言えるのですが、そこはゆかしき日本人。気恥かしさから櫛を手に、また猫の手を借りて行ってらっしゃいと手を振るのでしょうから、今さら突っ込めませんよねw


おかげさまで、定年を過ぎても元気で会社に残っている父は、母のこの朝の儀式を欠かさず受けています。猫の手だけ三代目になっていますが、40年以上も変わらない父母の愛情には、娘ながら、ごちそうさまなのです。


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※今回のピックアップ賞は1月15日(金)に「イエはてな」にて発表いたします。
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