「南部鉄器のすき焼き鍋」by id:tough


調理用品という包括的なツリーもありますが、こちらでは物品に関する話題ではなく、それにまつわるルポ中心の話題ということで、ツリーを分けて書かせて頂きたいと思います。
このすき焼き鍋は、昔の下宿屋に置いてあった物だったそうです。そのころの学生の住まいというと、アパートとは形式の違う、民間の学生寮と言った感じの下宿屋が主流だったそうです。
そのすき焼き鍋は、下宿生の間でずっと受け継がれ、使い続けられてきた鍋だったそうです。下宿に残る写真を見ると、少なくとも1960年代にはすでに存在していたとのことでした。
下宿生は、すき焼きだけでなく、目玉焼きから焼きそばまで、この鍋で作ったそうです。むしろ貧乏学生にはすき焼きよりこちらの方が主流だったことでしょう。金のない学生は小麦粉を水で溶いて、具のないお好み焼きを焼いてそれを食べていたとの話もあります。よく手入れされて油が馴染んだ鍋肌は、どんな素材もおいしく焼き上げてくれたそうです。
そんな下宿屋が、時代の流れと共に取り壊されることになり、お世話になった元学生たちが集まり、共同で使っていた道具などを思い出の品として分け合うことになったそうです。こうしてそのすき焼き鍋は父に引き取られ、わが家にやってくることになりました。
父の青春の思い出のすき焼き鍋ですから、昔の下宿生がしていたように、わが家でもとても大切にしています。使い込んだ鍋肌には今もよく油が馴染み、黒光りしています。こういう物は使えば使うほど手入れが行き届いて、寿命が長くなるみたいですね。父は、今も現役で使い込まれて黒々としている鍋肌を見て、昔と全く変わらないと、ちょっとうれしそうです。


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