「カカトをトントンがいってきますの合図」by id:TinkerBell


私は子供のころ、けっこう困った子供でした。
登校拒否というほどではないにしても、なかなか学校に行きたがらなかったんです。
いじめというほどじゃない、私が引っ込み思案だから、そのせいでちょっとみんなの輪から外されているだけ。
そんな状況でしたが、それでも子供の私にとっては、学校はとてもつらい世界でした。


でもほんと、登校拒否じゃなかったんです。
毎朝自分なりに頑張って、学校に行こうとしてたんですから。
玄関で靴を履き、それでもなかなかドアを開けて出て行くことが出来ないでいた私に、母が声をかけてくれました。
「嫌になったらいつでも帰ってきていいんだから、気楽に行ってらっしゃい」


そして、カカトをトントンと2回打ち鳴らす仕草をして見せてくれました。
「なぁに、それ」
オズの魔法使いに出てくる、ドロシーの魔法の靴の使い方」
「魔法?」
「そう。こうやってカカトをントンってやると、好きな場所に飛んでいけるのよ。あなた今、学校行きたい?」
「う…うん」
「じゃ学校を思い浮かべてトントンってやってごらん、そしたら靴が自然に学校まで運んでくれるから」


えーっと、カカトとカカトを…トントン。
あ、なんか楽しい、この仕草。


「学校で嫌なことがあったら、またイエを思い浮かべてトントンってやればいいんだからね、じゃ、いってらっしゃい」
「はーい」
こうして私は毎朝スムーズに玄関を出て行くことが出来るようになりました。
子供だましの手に乗ってしまったわけではありません。
カカトとんとんの後は、本当に不思議とステップが軽やかなんです。
この魔法は当時の私にとって、ほんとに効果抜群でした。


母も、私を励ます意味だったんでしょう、玄関のドアを開ける時は、いつもカカトをトントンとやって見せてくれました。
この仕草は、大人がやってもかわいく見えます。
そしてニッコリ笑顔で「じゃ、ちょっと行ってくるね」なんて言われると、これからどんなに楽しい所に行くんだろうなんて、本当にうらやましくなってしまいます。
「どこ行くの〜?私も行きたい」
「歯医者さんなんだけど、あなたも一緒に診てもらう?」
「きゃぁぁぁぁ」
なんていうこともありました。


このカカトをトントンは、父までやりはじめました。
あら、この仕草、男の人がやってもかわいいです(笑)。
そのうち、このおまじないは、行きたくない所に行けるようになるおまじないではなく、その日一日をより楽しくしてくれるおまじないに変わりました。
さらに、早く家に帰る効果もプラス。
これのおかげで、父は毎日真っ直ぐイエに帰ってくるし、年ごろの娘も夜遊びなどせず、そこそこの時間に笑顔で「ただいま」。
外でもイエを思い浮かべてカカトをトントンとやるから、靴の魔法がちゃんとイエに送り届けてくれるんです。


銀の靴でもルビーの靴でもないけれど、みんなの靴が魔法の靴。
こんなちょっと楽しい「いってきます」「ただいま」が、今も続くわが家です。


»このテーマの投稿コメント一覧はこちら。