「透明な氷作りを通して科学する心を育てよう」by id:YuzuPON


用意する物は、ある程度の大きさのある割れにくい容器。水は凍ると膨張しますから、割れやすいガラスや硬質プラスチック製の物は避けてください。形は、凍った後の氷がスポッと取り出せる物。深さのあるタッパーなどがいいですね。さらに容器をスッポリ包める清潔なポリ袋とタオルも用意してください。


まず容器に水を入れます。普通の水道水でいいですよ。なみなみと注ぐと凍っていく過程で膨張して溢れてしまいますから、容器の高さの7〜8分目くらいにとどめておきます。


水は天然水でなくてもいいの?とか、浄水器を通した方がとか、一旦煮沸して中の塩素や空気を飛ばした方が、などと言われそうですが、そういうことはあまり考えなくても大丈夫です。なぜなら水は凍る過程で、不純物を排除しながら分子同士が結びついていくから。どんな水を使っても、透明な部分はけっこう純粋な H2Oなんですね。


この原理を応用して透明な氷を作りますが、もちろん急速に凍らせると水の分子の結びつきに取り囲まれた不純物が逃げ場を失って閉じこめられてしまいますから、これを防ぎつつゆっくり凍らせていくためにポリ袋とタオルを使うのです。ポリ袋は水を入れた容器の清潔を保つため。容器を袋に入れて口を閉じ、周りをタオルで巻いて、それから冷凍庫に入れましょう。


ここからがもう一手間。時々凍り具合を確かめて、まだ中が直径の半分くらい残っているところで、中の水をこぼしてしまうのです。表面が氷結していたらつついて穴を開けてこぼしてください。この水には、水が凍る過程で追い出された不純物、その主な物は水中に溶け込んでいた空気などの気体ですが、それが集まっていますから、こぼさずそのまま凍らせていくと、この部分が白い不透明な氷になるわけですね。それを取り除いて新しい水を注いでやることで、中心部分の白濁を防ぐわけです。


新しい水を注いだら再び冷凍庫に入れ、さらに完全に凍りきる前にもう一度くらい同じことを繰り返すと、ほとんど白濁のない透き通った氷の出来上がりです。ただし、低温の氷に常温の水を注ぐと、冷たいガラスのコップにお湯を注ぐとピキッと割れてしまうのと同じ理由で氷にヒビが入ってしまうことがありますから、注ぎ足す水も予めよく冷やしておくようにしましょう。氷にキリッと冷やした氷水を注ぐ、といった感じにすると失敗が少なくなります。


出来上がった氷も、常温で取り出すとそこでピキッと亀裂が入ることがありますから、冷蔵室に移してゆっくりと温度を上げて、それから容器から取り出すようにするといいでしょう。こうして作った透明な氷は、眺めているだけでも美しいですね。


こんな氷をガラスの器の中心に置いて素麺などを食べたら、どんなにおいしいことでしょう。白濁のない透明な氷はカルキ臭もありませんから、本当に素麺がグンとおいしくなります。透明な氷は作るのに手間がかかりますから、もし子供がそれを作ったら、その子はもうイエの名シェフです。火も包丁も使いませんが、氷作りも味のうち、料理のうちですね。


本当に水は不純物を追い出しながら凍っていくのかを確かめるには、塩水で氷を作ってみるという実験方法があります。塩水は凍りにくいので、この場合はタオル無しでやってみましょう。周囲が凍ったら取り出して洗い、透明な部分だけを割って口に含んでみます。しょっぱくなかったら塩を追い出して固まった、ということですね。本当にそうなるか、試してみてください。


ちなみに、急速に凍らせた氷より、タオルで包むなどしてゆっくりと凍らせていった氷の方が、同じ温度なら溶けるのが遅くなります。それは、ゆっくりと凍らせていくことで、水の結晶が大きく成長していくから。


たとえていうと、たくさんの子供が広い校庭に散らばっているのが、液体としての水の状態です。そこで、「近くの誰かにタッチしてみましょう」と号令をかけてみます。これが凍るという状態への変化です。タッチする時間がたっぷりあれば、つながる子供の人数はどんどん増えていきますが、急速に凍らせるというのはそれを大慌てで行わせ、短時間で「ストップ、もう動くな」と号令をかけるのと同じことですから、全員が誰かとつながったとしても、それは大集団ではなく小集団の集合になってしまう、ということなのです。氷は集団の端の方から結束が崩れて溶けやすくなっていくので、ゆっくり凍らせた方が長持ちする氷になるんですね。


さらにちなむと、水の分子というのは、縦横整然と整列した形(たとえば金・銀・銅の結晶のような面心立方晶)ではなく、二本の手を前方109.5度の角度、つまり直角よりちょっと開いた程度に伸ばして、それで誰かの背中にタッチしていくような形で斜めに斜めにつながっていきますから(実際には4個の分子が形成する正四面体を最小構造とした組み合わせでつながっていきます)、空間の利用効率が悪く、分子と分子の間がスカスカ。普通の物質は固体の時より液体の状態の方が隙間は大きくなりますが、水の場合はみんなでタッチし合って固まった時の方が隙間が大きくなるので、凍ると膨張してしまう、ということになるのです。氷を作ることで見えてくる水の分子のミクロの世界。ちょっと面白いと思いませんか。


ここまできたら、もう一つ楽しい実験をしてみましょう。それは美しい透明な氷で凸レンズを作ってみること。冷たい氷を通した光で、はたして紙を焦がすことが出来るでしょうか。レンズ作りは、器をお椀のような形の物にすればOKです。正確な凸レンズの形にはなりませんが、似たような形は作れます。


こうして作った氷のレンズで太陽の光を集めてみましょう。黒く塗った紙に氷のレンズで集めた光を当ててみると…。かなりいい加減な形でも、ちゃんと紙が焦げるのが観察できると思います。不思議ですね〜。光は氷を通っても冷えないんです。それはなぜ?


子供と一緒に考えてください。冷えるってどういうこと?光ってどういうもの?いや、光は「もの」じゃなくて電磁波の一種だから…。あ、そうか!大人は学校で習った物理の知識を動員すれば、なんとなく理由が分かってきますが、それをじょうずに子供に説明するのはとても難しいことですね。


こんなふうに、大人には大人の、子供には子供の、それぞれの科学する心を呼び起こしてくれる透明な氷で、夏の名残を惜しむ食事や遊びや勉強をしてみてください。きっとそれぞれの思い出に残る楽しい時間が過ごせると思います。


»このテーマの投稿コメント一覧はコチラから。