「盛夏の味覚、夕顔の実」by id:momokuri3


朝顔ヒルガオ科なのに対して、夕顔はウリ科。名前は似ていますが、全然別の植物です。種類としては瓢箪に近いですね。というか、瓢箪の中で特に苦味の少ない実を付ける物が選別されて食用として育てられているうちに、夕顔として分化していったのではないかと言われています。


夕顔はとても大きな実を付けます。品種により、また収穫時期により違いはありますが、大きな物はどっしりと太った大根より大きいくらい。これが地上の蔓に実るのですから、もう圧巻です。


今は特定の地域でしか出回らない食材になっていますが、昔はかなり広い地域で食べられ、特に「ハレの日」の食べ物として認識されていたようです。また、夕顔の出来によって作物の出来不出来を占うような風習もあったと聞きます。


現在の主な生産地は栃木県。ここの干瓢は有名ですね。干瓢は、夕顔の実を薄く削って乾燥させた物です。あとは山梨県の富士北麓周辺や新潟県、東北の一部、そして沖縄など。新潟、東北、沖縄などでは、干瓢にするより、冬瓜と同じように料理して食べるのが主流ですが、これがまたうまいのです。


味わいはとても淡泊で、煮物などすると染み込んだ煮汁の味しかしない感じですが、しかし独特の爽やかな風味が何とも言えません。甘いとか辛いとかといった味覚では分類できない、ちょっと言葉では表現できないようなおいしさ。それが夕顔の味なんですね。冬瓜ともハヤトウリとも違う夕顔独特の風味。これは、はまるとやみつきになります。


調理は、大きな実なので、使う分だけ輪切りに切り取るところからはじめます。そして外側の皮をむいて種とワタを取り除けば下ごしらえ完了。


定番料理はまず味噌汁です。夕顔の実だけで仕立ててもおいしいですし、夏のナスやカボチャなどを加えてやや具だくさんでいただくのもおつなもの。煮物としては、油揚げや厚揚げなどと一緒に煮付けるとおいしいです。


薄切りにして油炒めにするのもいいものです。淡泊な味わいの実ですから、油ともよく合うんです。やはり油揚げや厚揚げなどと一緒に炒めるとおいしいですね。こつは、強火で炒めて、醤油などは最後に加えること。水っぽい素材ですから、早い段階で塩分を加えてしまうと、浸透圧で水分が出てきてべちゃべちゃになります。


あるいは薄くスライスして、加熱しない生のままで食べる。これもまたおいしいです。胡麻和えなどにするといいですよ。とにかく大きな実ですから、一個あれば様々な食べ方が楽しめます。


ただし、一つ注意しなければならないのは、夕顔に含まれるククルビタシンという成分です。これはウリ科植物特有のステロイドで、ゴーヤの苦味成分もこの仲間なのですが、夕顔の物は、唇の痺れや嘔吐、腹痛、下痢などの中毒症状を起こすことがあるので注意が必要です。特に未熟な果実に多いようですが、個体差や生育状態によってもククルビタシンが多くなることがあります。


新潟に旅をした時、大きく実った夕顔の手入れをしている農家の方に出会い、「でかいですね〜」と声をおかけしたら、こういうでかいのがいいんだ、店で小さなのを売っていることがあるが、ああいうのには時々苦いことがある、苦いのを食うと腹を下すぞと話してくれました。これがククルビタシンについての話だったんですね。食べて苦味を感じる物は避けた方が無難です。いい夕顔の実は全く苦味を感じません。


また、このおじさんは、日照りの年も苦いゆうごう(新潟の人は夕顔のことを「ゆうごう」と発音するみたいです)が多くなるすけ〜、と話してくれました。いい夕顔の実を育てるのは、なかなか大変なようです。


東京ではなかなか手に入らないちょっと貴重な食材ですが、それだけに夏になるとどうしても食べたくなるのが夕顔です。今がその最盛期です。


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