「夏祭りの後のお泊まり会」by id:SweetJelly


近くの神社の夏祭り。私達仲良し五人組は、お祭りの一日をみんなで一緒に遊んで、その夜、お泊まり会をする計画を立てました。その日は午前中からみんな私のイエに集まってわくわく。お祭りは浴衣で行こうということになり、持っていない子はうちにある浴衣を着てもらうことになっていたからです。母は日舞の師範で子供にも教えていましたから、衣装には事欠きません。


「こんなのどう?あなたにはこっちが似合いそう」。母が出してくれる色とりどりの浴衣にみんなきゃぁきゃぁ。「あんたんち、すごいね。」「ううん、これが商売だから。」「あんたも後継ぐの?」「うん、稽古きびしーよ、今はあんなに優しいお母さんも稽古になると別人。」「これ、何言ってるの?」「ひゃぁ〜。」


もう待ちきれなくなって午前中からみんなで神社へ。だって朝から祭囃子がずっと聞こえていたんですから。準備中の露店の脇を通って鳥居をくぐり、拝殿の前まで行ってまずお参り。私はこの五人がいつまでも仲良しでいられますようにとお祈りしました。


それから露店を一巡り。始まっているお店はひとつもなくて、まだ屋台を組み立て中の所もたくさんありましたが、どこに何屋さんが出るのかを偵察です。


「これは綿あめ屋さん。」「ここはきっとお面が並ぶんだね。」「机が出てる、型抜きだ。」


一回りしたら、近くの公園へ。だって空は雲一つ無い晴天で、すごい日差しだったからです。木陰に入って、ふーっと一息。みんな汗だくでした。
「うち帰って、一度シャワー浴びてから浴衣に着替えようよ、きっとお母さんが髪も結ってくれるよ。」
みんなでわーっと駆け出しました。


「お母さーん、シャワー使うよー。」みんな一緒に元気にシャワー。うわ、さすがに小さなバスルームに五人は満員電車のようです。これではシャワーじゃなくイモ洗い。でもみんな、普段と違うこんな仲良しがとても嬉しいのでした。


タオルは母が人数分用意してくれていましたが、小さな脱衣所では再び満員電車。みんなできゃーきゃー言いながら服を着て部屋に行きました。髪を乾かして、いよいよ待望の浴衣です。「さぁみんな、着替えるよ」と母。友達の着付けはみな母がやってくれました。私は一人で着られるのでちょっとつまんない。「ねー、髪結って。」私はちょっと甘えん坊さんになっていました。


みな髪が長かったので、一人一人アップに結ってもらいました。姿見の前に並んで、はい、ピース!さぁ、浴衣女子五人組、いよいよお祭りに出発です。


お祭りではたっぷり遊びました。あっというまに日が西に傾き、いつの間にか保護者同伴でない小学生は帰る時間です。私達はまだ遊び足りませんが、これからは楽しいお泊まり会。これも会場は私のイエです。


イエではまず浴衣のままで花火をしました。帰ってきた父がスイカの差し入れ。「なんか浴衣、汚しちゃいそう。」「着替えちゃおうか。」「うん。」普段着に戻って、みんなでスイカを食べました。そしてまた花火。ラストはやはり線香花火です。ちょっと、しんみりとした気持ちになりました。


それから夕食。父と母と私達五人で合計七人。大勢で食べるごはんは美味しいです。食休みをしていると、寝る支度が調ったぞと声がかかりました。なんと父が五人分の布団を敷いてくれていたのでした。
「あ、ごめん、私達で敷こうと思ってたのに。」「おじさま、やさしー。」「ありがとう。」父は女子小学生にもてもてになりました。


私達の寝場所は踊りの練習に使うちょっと広い部屋でした。そこに五人分の布団がずらり。この頃はまだ修学旅行の経験はありませんでしたが、修学旅行ってこんななのかなと思いました。


全員サッとシャワーを浴びて、パジャマに着替えて、布団の上で転げ回ったりトランプをしたり。「もう寝なさい。」「はーい。」でもまだまだ眠れません。布団に横になって今度はトークタイムです。


「ねぇ、好きな子の話しよう。」「そんなのいるわけないよ。」「あんたはいるの?」「いなーい。」「じゃ、自分のことを好きだと思う男子の話。」「それなら ○○、あいつ絶対○子のこと好きだよ。」「えー、やだ。」「いいじゃん、けっこういいやつだよ。」「ならあげる。」「いらないよー。」
まだ初恋もしたことのない女子達の恋バナごっこ。楽しい夜が更けていきました。


みんな、何も言わなかった。誰も、一度も触れなかった。夏が終わるとこの中の一人が転校してしまうこと。でもみんな、思いは同じ。たっぷり友情を深めて、思い出を作りたかった。きっとみんな、この後も眠ったふりをしながら、今日一日の、そして今日までの楽しかった思い出を胸に刻みつけていたに違いありません。今も思い出す、懐かしい夏の一コマです。


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